第15話 堕天使

 吹っ飛んだ堕天使が作った風穴を通り抜け、僕は再び一階の広場へと戻ってきた。

 向かい壁には小さくクレーターが出来ており、そのすぐ下で先ほどの堕天使が膝を折っていた。


 「気分よく喋ってる最中に殴るなんて酷い子だね。まったく」


 堕天使は殴られた左頬を拭いながら立ち上がる。さすがに一撃で戦闘不能にはできないか。


 「なんであの白い花を狙った!」


 身体についた埃を払う堕天使に僕は叫ぶ。


 「養分を吸い殺すなら他の植物でもいいはずだ」


 「そうね。貴方の言う通りよ。でもあたしがあれを狙ったも貴方のせいよ」


 は?


 堕天使のその言葉を一瞬、僕は理解できなかった。

 白い花が狙われたのが僕のせいだって言ったのか?あいつは……

 

 「毎日、毎日、貴方熱心に見てたものね。最初はなんでも良かったんだけど、あんな綺麗な目を見たら……ふふふ」


 思考が固まる僕に堕天使は口元に手を当て笑い声を溢す。

 そしてやつが次に放った言葉に


 「ふふふ、殺したくなっちゃうじゃない」


 停止していた僕の感情は爆発した。

 自分が持つ力を込めさっきと同じように堕天使との距離を急速に詰める。

 そしてもう一度、やつへ向け拳を突き出す。さっきより込める力を多く、放つ拳を重く。しかしそれがやつの顔面に届くことは無かった。

 攻撃を読んだのか?堕天使は僕が放ったその拳を片手で受け止めていた。


 「ほんと、挑発に弱いね。虚は」


 堕天使は受け止めた拳をその手で強くに握る。


 ぐっ!?


 握り潰される拳から軋む音が聞こえてくる。

 堕天使は掴んだ拳とともに僕の身体を持ち上げると階段のあるほうへ投げ飛ばした。

 飛ばされる時、僕の手から離れた松明が床の枯葉や枝に引火し教会内に火の手が広がる。

 飛ばされた僕は背中を勢いよく打ちつけ、階段の流れに従って広場へ転げ落ちる。

 火の手が僕と堕天使を包む。真っ暗だった教会内が明るく照らされ、その火によって僕とやつはお互いにその姿を認識する。

 天使とは思えぬ黒髪。拳を止めた暗き腕。影と同化するほどの黒い翼。

 上半身は何も身に纏って無く。下半身は獣ような毛と爪を持っていた。

 これが堕天使。僕はその存在を初めて目にした。


 「その目。堕天使を見るのは初めてみたいね」


 こいつはやばい。

 堕天使の言葉に僕は唾を飲み込む。


 「それにその手。虚は何人も見てきたけど貴方は特別枠の方みたいね」


 堕天使は僕の右手を指差す。やつの差すその手の甲にはA《エース》のマークが浮かび上がっている。


 「僕の力を知っているのか?」


 そう言いつつ僕はゆっくりと膝に手を当て立ち上がる。


 「ええ、力の概要と存在だけわね。それがここに来た当時、あたしまだ天使だったから」

 「内包する十三の力を駆使して戦う異能戦士。二十世紀末期に行われた儀式によって生まれるはずの産物……ふふふ、」


 僕の持つ力について語る中、ふと笑いだす堕天使。


 「貴方を吸ったらその力、貰えるのかしら」


 正気か?白い花の次は僕って、ランチさんの言ってた通りだ。

 堕天使は自分の欲優先の傲慢やろうだ。

 ゆっくりとこちらへ向かってくる堕天使は、黒い翼を旗めかせると一直線に突っ込んできた。

 

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