第14話 怒りの拳

 「アンタがやったのか?」


 枯れるほどの叫び声を上げた僕は、部屋の扉の辺りに立つ気配に意識を移す。


 「アンタがやったのか?って聞いてんだよ!」


 白い花を前に僕は、再度その気配相手に叫ぶ。しかし反応は何も返ってこない。

 涙で濡れた顔のまま握り締める松明を気配のする方へと向ける。

 松明の炎が部屋の扉に立つそれを照らす。

 明るみの無い髪色、睨みつける目、相手を見下すような目線。そして暗闇に紛れて見えにくいが、その背中から確かに伸びる翼。

 間違い無い。こいつが例の堕天使だ。

 頭でそれを理解した僕は、堕天使に対し敵意の視線を向ける。


 「勝手にあたしの住処に入ってきてピーチクパーチク。うるさい子だね。誰君?」


 「僕はエース。白い花を買った堕天使を探してここに来た」


 「白い花……?ああ、それのこと」


 僕の質問にそいつは顎で指し、忘れていたことを思い出したかのように返答した。


 「アンタは堕天使なのか?」


 「ええ、そうよ」


 「アンタがやったのか?」


 「そうよ。ここにはあたししかいないもの」


 一つ二つと聞く問に堕天使は淡々と答える。


 「なんでこんなことをした?」


 「なんでって、ただ養分が欲しかっただけよ。あたしは元とは言っても植物を司る天使だったのよ」


 「他の天使に聞いたことがあるから知ってる。養分を吸うだけならこんなことはしなくていいはずだ」


 やつの言う植物を司る天使。

 天使はそれぞれ何かしらの役割を持っている。昔、植物を司る他の天使に聞いたが、研究やデータを取るために養分を吸うことはあるがそれ以外の理由で吸うことは無いと。


 「あら、珍しい。ただ転生待ちするだけの虚にしては物知りなのね」


 「世辞はいい。他に理由があるはずだ答えろ!」


 「ふぅ〜。殺したかった。ただそれだけのことよ」


 呆れるように息を吐いた後、堕天使は淡々とその言葉を口にした。


 「殺したかった……?それって、どういう」


 僕は耳にした堕天使のその言葉が理解できなかった。


 「正確にグチャグチャにしたかった。買ったその日に養分を吸い。その後にお楽しみを始めた。あたし、好きなものは最後に頂く派なの」


 堕天使が連ねる言葉に理解できないせいか?最初、僕は反応できていなかった。


 「まずは鉢を思いっきり地面に叩きつけた。その次に左足でゆっくりと捻り潰したわ。その後は……」


 「……れ、」


 「葉っぱを千切ったり、茎を折ったりして……」


 遊びにでも行ったかのように、堕天使は当時のことを楽しそうに話続ける。それを耳に僕は……


 「…まれ、」


 「最後に花冠かかんを握り潰し……」


 「黙れって言ってんだよ!」


 自分が持つ力を解放した。

 自分のしたことを楽しく喋るやつの前に飛び込み。僕はその手に作った拳をその堕天使の顔面目掛けて打ち込む。

 顔面に一撃を受け唾液の絡んだ聞き取れない声を発すると共に堕天使は、部屋の扉や壁を突き抜け後方へと吹っ飛んでいく。


 「ごめんね。もうちょっとだけここで待っててね」


 着ている服の袖を千切りそれを白い花に被せ、僕はやつが飛んでいったほうへ後を追う。

 


 

 

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