第三章 堕天使
第11話 友との約束
明かりは消え、寝静まる施設内は、時計の音だけが聞こえている。
自室のベッドで横になっていた僕は、ジッと閉じていた瞼を開ける。
壁に掛けてある時計を確認すると短針が十二と一の間にいる。
一人部屋で良かった。二人や四人だったら起き上がるのがもっと大変だったろう。
真っ暗な部屋でそんなことを考えながらベッドから起き上がり、窓の前へと移動する。
両開きの窓を開けるとぶつかっていた風が部屋に流れ混んできた。
僕の部屋は施設の三階。施設内から外までの道を確保した僕は窓の前で片足の踵を二回鳴らす。
すると気づけば僕は施設の外、地面に足を着けていた。
これは僕が持つ特殊な力の一つで、障害物が無ければ視界に映る範囲内に高速で移動することができる。
正直、これだけで堕天使がいるという教会には行けるだろうが、この力は体力の消費が激しいため乱用できない。
自分の持つ力にため息を吐きつつ足音に気をつけ、僕は施設にある馬小屋のほうへ進む。
「おーい、アンブレラ」
馬小屋に着いた僕は、小屋で眠っている一頭の白い馬を起こす。
僕の呼び声に気づいてか?アンブレラはゆっくりと目を覚ます。寝ぼけながらもその目に僕の姿を映すとアンブレラは自身の頭を僕のほうへ摺り寄せてきた。
「おはよう。ごめんね。こんな夜中に起こして」
僕の言葉を理解してか?「大丈夫だよ」と言うようにアンブレラはその首を横に振るう。
「アンブレラ。行きたい所があるんだ。そこへ僕を連れてって欲しい」
真剣な眼差しで僕はアンブレラに訴えると、僕を見つめるアンブレラはその首を立てに振ってくれた。
アンブレラの同意も得られたところで急ぎ準備に取り掛かる。
アンブレラを広場へ誘導し、用意した手綱を装着。諸々の準備を終え、僕はアンブレラの背中に跨る。手綱をしっかりと握り、駆け出す合図を送る。と、その時だった。
「こんな夜中にどこ行くきだ?」
背後で僕を呼び止め声が聞こえてきた。振り返ると、そこには寝巻き姿のスペクエルが立っていた。
眠いのか?睨んでいるのか?分からない顔でスペクエルは僕のことを見つめている。
「なんで……」
驚きのあまりに思わずその反応が口に出る。
「今朝から妙に様子が変だったからな。朝食の席にも顔を出さないし、あいつらと遊んでる時もどこか心ここにあらずに見えたからな。何かあると思って、ずっと起きてたんだよ」
「何も無かったらどうしてたの?」
「ん?その時は俺がただ寝不足になるだけだ」
会話をしつつ背後にいたスペクエルが僕の足下へ近づく。
「で、どこ行くんだ?」
足下から見上げながら彼はもう一度その質問をする。
「別に……、ただの散歩だよ」
「散歩ねぇ〜。……わざわざ
ゔっ、
ふと出てきた僕の言い訳に、スペクエルは痛いところをついてくる。
「……スペク。僕さ、これから行きたいところがあるんだ」
更に言い訳を考えようと思ったがやめた。スペクエル、スペクはこの施設で一番仲のいい家族だ。全部は口に出来ないけど、出来る限りの言葉で説明した。
「その行きたいところは今じゃなきゃダメなのか?」
スペクの言葉に僕は無言で頷く。
僕の返しにスペクは自身の後頭部を掻きつつため息をこぼすと、
「誤魔化せるのは朝食前までだからな」
彼はそう言った。
ああ、
嬉しかった。
スペクは説明しきれない曖昧な僕の事情を許してくれた。
「明るくなる前には帰ってくるよ」
「ああ、気をつけてな」
死んだ人間と生きる天使。種族が違いながらも僕らは互いに信頼の視線を向ける。
「それじゃ行ってきます」
「行ってらしゃい」
その言葉を最後、僕は
約束を破っているだけだ。
我儘なだけだ。
歪んでいる。
頭から足まで説明すれば誰かはそう言うだろう。けど、それでも僕は自分がやりたいことをやり遂げたい。
ふと施設をほうを振り返るとスペクがまだ飛び立つ僕へ向け、手を振っていた。
彼のその姿に僕はグッと堪えた。そして再び前へ向き直す。
例の堕天使がいるとされる教会へアンブレラを走らせる。
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