第5話 黒い羽は自己中心的
「答えになってないよ」
「え、」
カップに口をつけ冷めた甘いコーヒーを喉に流しこむ。近くに置かれていた机に僕は勢いよくカップを置いた。そして怒りのようなに僕の強い眼差しがランチさんの姿を捉える。
「ランチさんの言い分は分かる。けどそれがあの白い花を諦める理由にはならない」
ランチさんへ放つ僕の声に怒りの感情が乗る。
「ランチさん、その堕天使の特徴と居場所を教えて。話をすれば譲ってくれるかもし、」
「それはダメだ!」
焦る僕の言葉を遮るようにランチさんは、部屋中に届くほどの声を上げる。
「アイツらに話なんて通じない、面と向かえば話をする前に欲望の食材になる。私だってこの店があったから何ともなかったんだ」
早口に話したせいで息切れを起こすランチさん。堕天使について始めは冷静に説明してくれた彼女が今は、その顔に恐怖を浮かべているようだ。
「ランチさん…」
「うっ⁉」
意図せず口から漏れる音に手を押さえ、その身を曲げるランチさん。
「ランチさん⁉」
目の前の光景に驚きながらも僕は彼女の傍に寄り添い声を掛ける。
「…大丈夫ですか」
「すまない、…大丈夫だよ」
口元を押さえていた手を避け、僕の呼びかけに答える。けれどランチさんの表情は青ざめており、他者から見ても大丈夫には見えなかった。
僕はランチさんの身体を支えつつその背中をゆっくりとソファの背もたれへ預ける様にした。
「ちょっと待ってて」
ランチさんをソファに預けた僕は、勝手ながら店の奥へと向かった。その先は先ほど彼女がコーヒーを持ってきたほうだ。
向かった理由は、こっちに水道があると思ったからだ。
「はい、ランチさん。これどうぞ」
ランチさんの視線の先には、水の入ったコップを持つ僕の手が。その手からコップを取るとランチさんは喉を鳴らしながらその水を流し込んでいく。
「はぁ~、…ありがとう」
「いえ…」
近くで感じられたランチさんの激しい鼓動が徐々に落ち着いていくのが分かる。
よかった。向かった先に水道があって、ランチさんの様子を目に、僕の心の中が安堵の気持ちに置かれる。
それにしても何でランチさんは堕天使の危険性についてそこまで知ってるんだ?僕が合って話をするって言った時も強く止めてきたし…
「ランチさん、…ランチさんは堕天使についてどこまで知ってるんですか?」
「そうだね。…他の天使や戦乙女以上には知っているつもりだよ」
僕の質問に隣でそう答えるランチさん。
「…少しばかり私の話に付き合ってくれるかい」
僕から向けられる視線にランチさんは、寂しそうに話を始める。
「私には二人の友達がいてね、いつも仲良く過ごしてたんだ。でもある日、…一羽の堕天使に出会ったんだ」
「突如として現れたアイツは、一瞬にして友達の一人を殺した。目の前に広がる光景に私は動けなかった。戦乙女の名が聞いて呆れるよ」
悲しく自分の過去を告白するランチさん。その後も彼女は堕天使の危険性について話しを続ける。
「動けないでいる私の傍でもう一人の友達の天使が言ったんだ。自分を貴方の仲間に堕天使にしてくださいって」
「え⁉」
友人の予想外の行動に思わず声を出す。
「驚くよね、私も当時は裏切られたと思った。けどその後にその子が言ったんだ、この子は逃がしてくださいって。その子のおかげであたしは今、ここにいるんだ」
「その後、その子はどうなったんですか?」
「裁かれた、この世界の神様に。私も弁明したんだけど関係無い問答無用だ、って襲って来た堕天使と共に断罪された…」
「それからも戦乙女として任務をこなす中、何度も堕天使と遭遇した。目の前で殺されていく同胞、繰り返す度に力を付けようと努力を重ねていく私。…けど数年前、糸が切れたように疲れちゃって」
ゆっくりと腰を上げ立ち上がるランチさん。その視線を落とし、僕のことを見る。
「だから約束してくれ、アイツには会わないことを。あの白い花を諦めることを」
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