第3話 冒頭ムービー的なそれ

 排気口から覗く暗い雲から落ちる薄黒い雨。けたたましい音を立てながら吹き出される蒸気。巨大機関ギガ・エンジンの稼働音。

その中でもはっきりと聞こえる時計の音。

 チク・タクと時を刻むそれはもうすぐで正午を迎える。


「ああっ!もうすぐ……もうすぐだ。これが完成すれば、あらゆるエネルギーが賄える」

 妖しく光る歪な宝石の前で白衣の男は高らかに笑う。

「素晴らしき哉素晴らしき哉。まさかこれほどまでの完成度を誇るとは、いやはや存外惜しいもので」


 男の背後、暗がりの奥からオリエントの役者が被る様なノウメンを付けた男が拍手をしながら現れた。黒の礼服フォーマルスーツに白いノウメンがちぐはぐな印象を与えるが、それがまるで自然であるかのようにノウメンの男は振る舞う。


「これはヤクモ殿。どうですあなたの教えてくださった知識を基に作ったこの凧形二十四面体トラペゾヘドロンの出来栄えを!これがあればあらゆる熱量の増幅が可能となる!」

「ええ、ええ、とても素晴らしい出来ですな博士。これを巨大機関に填め込めば“あちらへと繋がる”熱量も十分賄えるでしょう」


 表情こそわからないがとても愉快そうに笑うノウメンの男は、博士と呼ばれた男から宝石を受け取ると、巨大機関に増設されたケースに装着する。

 すると三千度を超える熱にも耐えられるように設計された機関が白く輝き周囲にその熱波を迸らせる。その熱は離れた場所に避難していた博士をも燃え上がらせる温度となり室内に充満していく。


 ノウメンの男は燃えていく博士に深く礼をした。

「ありがとうございます博士。あなたがいてくれたおかげで私は吾輩は、悲願のひとつを達成することが出来ました」


 巨大機関が更に白熱を増していき、熱によって融解した天井の先、雨をも蒸発させながら一筋の光が、鉛のように重く暗い雲を突き破り空へと還っていく。

 光は周囲の建物すらを飲み、溶かして、広がっていき、収束していく。

 そして、穿たれた大穴の中心には空を貫くような白い柱が立ち、それに支えられているかのように雲の消えたそこに“逆さまの街”が現れた。

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