第11話 お父様と相談
「アスティ、聞きたいことがある」
「……な、なんでしょう?」
私は怯えるフリをする。
まだ記憶喪失になって慣れていない、という体を通すためだ。
『ど、どうしましょう、魔女様。お父様に何と言えば……』
……落ち着いて、アレティ。
「……本当に、あの場で助けてくれたのはあの青年なんだね?」
「は、はい……後、他の男性が仲間割れを起こしていて、それに乗じて助けてくれました」
「……そうか」
お父様たちが来る前に、魔法で彼らの認識をズラしてあるから問題もない。朋成が他の誘拐者にそそのかされて、ではなく日本人である彼が金があると踏まれ攫ったアスティリアと共に家族に対して金の要求をする予定だった、ということにしてある。
だから朋成は今後のことは問題ないはずだ。
「……君は聡い子だ。だからこそ、私たちは心配なんだ」
「……お父、様?」
「ゆっくり、記憶を思い出していけばいい……ゆっくり、ゆっくりでいいんだ」
「……お父様、少しいいですか?」
「何がだい?」
「私、トモナリ様の傍にいたいのです」
「……なんだって?」
お父様の口角が引きつるのが分かる。
いや、5歳児の子供が何を言っている? という顔つきだ。
私は思い切って話すように勢いよく言う。
「私、助けてくれたトモナリ様の住まう日本という国に行ってみたいのですっ」
「……なんだって?」
「お父様、硬直なさらないで!
「待ちなさい。それは、違う。違うんだよアスティ」
「違う? ……どういうことでしょう?」
「それは……吊り橋効果と呼ばれる物で、助けてもらったから好意を抱いたというだけであって、恋心じゃない」
「よくわかりませんわ、ですけれど私はトモナリ様の傍にいたいのですっ! ベリス兄様にもお話しに行って、日本に行く許可がもらいたいのです!!」
「だめだ」
「嫌です!!」
眉をハの字にして困っているお父様が妙に可愛らしい。
……記憶喪失の娘に戸惑っている父親は見ていて和んでしまう光景だろうが、ベリスに会う機会とトモナリと一緒に日本へ行くことへの口実としては変ではない。
『魔女様!? 一体何を考えていらっしゃるのですか!?』
私は正常よ。助けられた恩がある人物にお礼をしたいだけ、という体を通したいだけ。一目惚れとはいわなかったでしょう?
『……そ、そういうことでしたら、よかったです。私には、ベリスお兄様がいますもの』
……近親相姦はよくないわよ。
『そ、そのような意味ではないです!! 意地悪なさらないでください魔女様!』
どうだか。
『もう、魔女様っ!!』
はいはい。
顔を赤らめているアスティリアに冷静に返す魔女。
ティアレーゼは父親に真に迫るため、力のこもった説得を試みる。
「トモナリ様に恩返しをしたいのです。それに今回のように誘拐されてはお父様たちにご迷惑をおかけしてしまいます……私は、それが嫌なのです」
「な、なんだ……そういうことか。だがアスティ、君が気にする必要はないんだよ」
「ですが……私は、怖くて、怖くて怖くてたまらないのです。もう一度、あんなことがあったら……お父様たちと二度と会えないんじゃないかって」
自分の体を抱きしめる。
アスティリアは涙を流す。
演技の知識は、ロゴスティアードの歌手や演者たちから学習済みだ。
「……アレティ」
「せめて、ベリスお兄様に会いたいのです……トモナリ様は、どうなったのですか?」
「警察に事情聴取されて、もう解放されたようだけど……日本に帰るとも言っていたね」
「……今日、ベリス兄様に会いに行ってはいけませんか?」
「何を話すつもりだい?」
「一度、ベリス兄様がどんな方なのか、会いたいのです……それだけでも、許してくださりませんか? お父様」
「……わかったよ。今日の午後は本来、ベリスに会う予定になっていたからね」
「本当ですか!?」
「ああ」
「ありがとうございます! お父様っ」
私はお父様に抱き着く。
アスティがする行動かはわからないが、記憶喪失になったアスティリアの行動としては変ではないはずだ。お父様は私を抱き上げ、優しい顔を私に向ける。
「……じゃあ、昼食を食べ終えてから、行こうか」
「はい! お父様っ」
アスティリアの満面の笑顔で、なんとかこの場をやり切った。
……よし、問題なく計画は進んでいる。
後は、ベリスの許可さえあれば問題ない。
昼食にどんな食事が出るのか楽しみにしながら、お父様は部屋を去った。
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