第9話 転生して初めての食事
アスティリアは着替えを済ませ、食堂へと向かうことにした。
異世界に転生した、という実感を感じて高鳴る鼓動を抑えきれない。
表面上、平静を保つのに必死だ。
『やっぱり魔女様は異世界の方、なのですよね』
そうよ。信用できない?
『い、いえ。私の体で、自分の意識があるはずなのに、全然違う感覚がして……これが魔法なんですよね!?』
……まぁ、そうなるかしら。
それにしてもこの屋敷、案外広いのね。
魔王ヴァルゼルガの城塞よりは小さいからホッとする。いいや、私が単純に引きこもり体質で、狭い部屋が好きなのもあるのかもしれないけれど。
……マフィアの家系の男と医者の家系の女。
まさに禁断の恋のロマンスの香りがする。私だったら、その設定だけで恋愛小説として読みふけられることができるだろう。
もし小説を書くとしても、題材としては悪くない。
『……ふふっ』
……何? アスティリア?
『いいえ、魔女様も恋愛小説をお読みになられるんだなと』
貴方には、私の思考はある程度聞こえてくるでしょうけど……馬鹿にしてるの?
『い、いえ! そ、それから魔女様、私のことはアスティとお呼びください』
……構わないけど。
『よ、よかったです! え、えへへ』
彼女の嬉しそうな笑みを零している声が、なんとなく嫌になれない気持ちがよくわからなくて、私は食堂に向かう足を速める。
扉を開ければ、そこにはアスティリアの両親が席に座っていた。
「……おはよう、アスティ」
「おはようございます。お父様、お母様」
「おはよう、アスティ。昨日の夜は眠れたかしら?」
「はい」
マインベルが笑顔で微笑むのを見て私もにこやかに返す。
私は自分の席に座る。
カトラリーが並べられているのを見て、自分の中の礼儀作法がこの世界で正しいのかよくわからない。必ずしも、私の世界でのテーブルマナーがあっているとは限らないだろうから、アスティリアに心の中で尋ねながら食事をすることにした。
並べられている料理は、朝としてサンドイッチとトマトレタスサラダに目玉焼きなど、朝食らしい品が並べられている。
……アスティリア、構わないかしら。
『はい、ではナイフとフォークを握ってください。私は右利きなのでフォークは左手に、ナイフは右手にです』
……わかったわ。
私はふと、近くにある黄色いスープが目に入る。
黄色い粒は、おそらくコーンだろう。
コーンが入ったスープとは、これ如何に……?
思わずなんだろうと、じっと見る。
『魔女様、コーンスープ飲んだことがないんですか?』
……あまり多くはないわね。
スープを取る時は、スプーンでいいのよね?
もちろん、右手に。
『は、はい』
私はスプーンでコーンスープを飲むことにした。
「……っ、」
美味しい、味覚が感じる。最果て図書館の司書になってから、必要が失せた食事が、たまらなく美味しく感じる。
くどくない、そして濃厚な味に私は口角が上がってしまう。
「~~~~~~~っ!!」
頬が落ちる、とはこのことだ。
「どうした? アスティリア」
「え? あ、い、いえ……っ」
「ふふふ、昨日は大変だったものね。スープ、お代わりできるから」
「は、はい!」
他にも、私はアスティリアの指示のもと丁寧に食事を済ませて言った。
マインベルのコーンスープは中々に美味だった。
……マインベル、中々の腕じゃない。
コーンスープ、異世界で初めて食べた食事の中でも悪くないものだったわ。
お腹が満たされた満足感に二人にきちんとした礼節を忘れず、食堂から去ると私は自室に戻った。
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