第6話 ローゼンベルク家について

 私は治療としてルオウを、アスティリアの屋敷に招きながら私は母親である人物の部屋へとやって来た。


「それで、アスティ。貴方はどこまで覚えてるの?」

「私の名前が、アスティリア・ウィル・ローゼンベルグだということだけです」

「……そう、わかったわ。まず、私の名前を言うわね。私はマインベル・ウィル・ローゼンベルグよ」

「お母様、この世界はなんというのですか? ここは、どこの国なんでしょう」

「この世界は地球。正確に言っても地球という惑星であって、この世界が地球って名前であるわけじゃないわ。そして、私たちがいるのはドイツという国の首都であるベルリンよ」

「地球……ドイツ、ベルリン」


 私は口元に手を当ててアウェスを脳内で起動する。

 

 ――アウェス、後で自室に戻る時に情報を開示して。いいわね?


『否定。勇者に魔女と私のパスをいくつか封鎖されたのもあり全開にさせるにはこの世界での貴方の年齢が7歳になってから完全に解放。魔女のいた世界ではないため、情報採取には時間がかかることが想定』


 ……それは、何を指して7歳なの?

 というか、待って。この子の年齢って今何歳なのかわかる?


『肯定。少なくとも5歳児程度と認知』


「お母様私の今の年齢って、何歳でしょうか」

「今は5歳よ……誕生日のことは覚えてる?」

「……ごめんなさい」

「そう、無理をしないで。ゆっくり思い出して行けばいいわ」


 正解のようね……じゃあアウェス、7歳はこの世界での成人なの?


『否定。アスティリアの母マインベルからの精神を垣間見て得た情報では、基本的な各国の成人年齢の基本は18歳。他国によってブレを確認。勇者の呪いを薄め、完全にパスが繋がる日数を査定した想定した場合の結果、7歳が妥当』


 だとしても、一年半ほどかかるのね。


 ――……あの勇者、ろくでもないことをしでかしてくれたわね。

 

 7、という数字に何かしら関連があるように感じる。

 私が魔女の中でも七つの罪を武器として固定化させた総称、七罪歌シュトラーフェ・武装ヴァッフェがある。しかし、それに関連しているというよりも、別の意味が含まれている気がする。

 ……何か理由でもあるのだろうか?

 この体に何かしら理由があるのかもしれないけれど、わからないわね。

 脳内の中で、私は溜息を零した。

 少なくとも、アウェスとのパスが全部切られたわけじゃなかったのも幸いしてなんとかこの場に立っているのだから御の字ともいえよう。

 つまり、私がいた世界と違って以前よりも必要最低限の情報しか得られない一般人と同レベルになった、ということね。


『肯定、少なくともこの世界の情報はマナが薄い分、魔女周辺付近の情報しか採取が不可能』


 私がいる周辺の情報は、得ることができるのね?


『肯定』


 ……貴方がこの世界では無能でないようで、ホッとしたわ。

 ティアレーゼ、いや、アスティリアは思考し続けるようにマインルベルに仕草を見せながら、ゆっくりと口を開く。


「マインベルお母様、私の家族は本当になのですか? 普通の医者が娘にあんな豪勢な部屋を用意するわけがありませんし」

「……やっぱり、貴方は記憶を失っても聡いのね」


 マインベルは目を伏せてから、ゆっくりと息を吐いた。


「お父様はクローヴィス・ウィル・ローゼンベルグは……医者だけど、家系がマフィアの人なの」

「……マフィア?」

「そう、マフィアよ」

「……どういう物なのですか? その、マフィアというものは」

「そうね。犯罪組織、という認識が世間一般の常識になるのかもしれないわね。でも、お父さんの家系は何の理念もない暴力組織と言うわけではないわ」


 暴力組織、か。似た組織なら私も記憶している。

 私がいた世界であるロゴスティアードにも北の国に間人族と獣人族の組織のバイアクセル。植人族のドリアードたちと魚人族のマーメイドのマリンプラントと言う二つの組織とで、抗争を繰り広げていたとか。

 ……他にも死人族のゾンビと霊人族のゴーストであるゴアズアークが暗躍していたりとだとか、思い出したらキリがない。今まで最果ての図書館で頭痛など感じるよりも、怠惰に過ごすことばかりを退屈を覚えるだけの日々だったのに。

 というか、犯罪組織なんてある時点でこの世界にも抗争や戦争がゼロじゃない、という裏が取れたようなものだ……はぁ。


「アスティ? どうしたの?」

「あ、いえ……でもお父様は人殺しなんて、しないですよね? 医者なんですもの」

「ローゼンベルグの当主はアスティの義理のお兄さんであるベリタスティークがなってくれているわ、クローヴィスは医者なのは本当よ。あくまで家系的にいうなら、マフィアというだけだもの」

「そう……ですか」


 だったら、義理の兄というベリタスティークとは会っておかないとな。

 私の今後のことも考えて、彼と話をつけておくのことは筋が通っている気がするし、どういう人物なのかも知る必要性がある。


「お母様……頭がクラクラするので、自室に戻ってもいいでしょうか?」

「場所はわかる?」

「いいえ、連れて行ってもらいますか?」

「わかったわ。じゃあ、一緒に行きましょうか」

「お願いします」


 私はマインベルの手を握りながら、自室にまで連れて行ってもらうこととなった。


「ここがアスティの部屋よ」

「ありがとうございます、お母様」

「疲れたでしょう? 今日はゆっくり休んでね。晩御飯は後で持ってくるから」


 にこやかに笑顔を浮かべマインベルはアスティリアの部屋から去った。

 扉が閉じたのを見計らってアスティリアはようやく、ベットにダイブしてゴロゴロし始める。


「疲れたわ……ようやくベットね」


 アウェスで体力向上のバフをかけてもらったせいもあってか、全身に一気に筋肉痛が襲ってきた。もう、ベットに体が根を張った気分だ。

 魔女は、ベットの上でうつ伏せになりながら自分の従僕の名を呼ぶ。


「……アウェス」

『魔女、何を所望?』

「……夢の中でアスティリアの意識に働きかけて。順番が逆になってしまったけれど彼女とするわ」

『承認』


 短い返答に、私はゆっくりと寝るために必要最低限のことを行うことにする。

 クローゼットからアスティリアが使用していたであろう寝間着に着替え、就寝することにした。瞳を閉じて、私は転生の秘術で眠りについているアスティリアの精神を夢の中へと誘った。

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