第6話 ローゼンベルク家について

 私は治療としてルオウを、アスティリアの屋敷に招きながら私は母親である人物の部屋へとやって来た。


「それで、アスティ。貴方はどこまで覚えてるの?」

「私の名前が、アスティリア・ウィル・ローゼンベルグだということだけです」

「……そう、わかったわ。まず、私の名前を言うわね。私はマインベル・ウィル・ローゼンベルグよ」

「お母様、この世界はなんというのですか? ここは、どこの国なんでしょう」

「……そこも覚えていないのね。この世界は地球。正確に言っても地球という惑星であって、この世界が地球って名前であるわけじゃないわ。そして、私たちがいるのはドイツという国の首都であるベルリンよ」

「地球……ドイツ、ベルリン」


 私は口元に手を当ててアウェスを脳内だけで起動する。

 

 ――アウェス、後で自室に戻る時に情報を開示して。いいわね?


『どの情報を閲覧するか要求』


 そうね、もしできるなら言語は統制されている?

 それともアスティリアの知っている範囲だから聴覚処理はできているはずよね?


『肯定、アスティリアの肉体での知識範囲内なのを認識』


 そう、じゃあ後でアスティリアの自室で、ドイツの情報を全部閲覧したのだけど。


『否定。勇者に魔女とのパスを何本か封鎖を確認、全開にはこの世界でのアスティリアの年齢が9歳になってからが完全解放。魔女のいた世界ではないため、情報採取には時間がかかることが想定』


 ……それは、何を指して9歳なの?

 というか、待って。この子の年齢って今何歳なのかわかる?


『肯定。少なくとも7歳児程度と認知』


 ……確認は大事ね。


「お母様、私の今の年齢って何歳でしょうか」

「今は7歳よ……本当に、忘れてしまっているのね。今年で8歳になるわ。けれど、そう、そうね……無理をしないで。ゆっくり思い出して行けばいいわ」


 マインベルは優しい母親らしくアスティリアを気遣う。

 ……普通の家庭の母親らしくはあるけど正解のようね。

 じゃあアウェス、9歳はこの世界での成人なの?


『否定。今の言葉でマインベルからの精神情報から垣間見て得た情報では、基本的な各国の成人年齢は主に18歳。他国によってブレを確認。勇者の呪いを薄め、完全にパスが繋がる日数を査定した想定した場合の結果、9歳が妥当』


 だとしても、一年半ほどかかるのね。


 ――……あの勇者、ろくでもないことをしでかしてくれたわね。


 脳内で、頭を抱えながら私は溜息を零した。

 ティアレーゼは今のアスティリアの年齢に奇妙な偶然を感じる。

 私が魔女の中でも七つの大罪を武器として固定化させた総称でもある武装、原罪武装シュトラーフェ・ヴァッフェがある。

 魔女である私の転生体だから何かしら縁がある人間を、とも思っていたが……まさか、年齢を判断して転生した覚えはないのだけど。

 この世界にいるかもしれない神様と言う存在が粋な計らいでもしたのだろうか……いいや、そんなはずがないな。神は傲慢で残酷な者だ。

 己の享楽のために世界として区切られた登場人物である演者たちの結末を幸不幸どちらも楽しんで高笑いしている連中それが神だ。


「……」

「……アスティ?」


 アスティリアは顎に手を当て思案を始める。

 少なくとも、アウェスとのパスが全部切られたわけじゃなかったのも幸いだ。同時に現にあの誘拐犯たちの商品にならずに済んだのだ、御の字、とも言えるだろう。


 ——つまり、私がいた世界と違って以前よりも必要最低限の情報しか得られない一般人と同レベルになった、ということね。


『肯定、少なくともこの世界の情報はマナが薄い分、魔女周辺付近の情報しか採取が不可能』


 私がいる場合においての周辺の情報は、得ることができるのね?


『肯定、周囲10メートル範囲なら全情報の閲覧は可能』


 ……貴方がこの世界では無能でないようで、ホッとしたわ。

 ただ条件付きなのね……はぁ。ティアレーゼ、いや、アスティリアは思考し続けるようにマインルベルに仕草を見せながら、ゆっくりと口を開く。


「マインベルお母様、私の家族は本当になのですか? 普通の医者なのにお金を要求されることなんて滅多にないかと」

「……やっぱり、貴方は記憶を失っても聡いのね」


 マインベルは目を伏せてから、ゆっくりと息を吐いた。


「お父様はクロヴィス・ウィル・ローゼンベルグは……医者だけど、家系がマフィアの人なの」

「……マフィア?」

「そう、マフィアよ」

「……どういう物なのですか? その、マフィアというものは」

「そうね。犯罪組織、という認識が世間一般の常識になるのかもしれないわね。でも、お父さんの家系は何の理念もない暴力組織と言うわけではないわ」


 暴力組織、か。似た組織なら私も記憶している。

 私がいた世界であるロゴスティアードにも人間族にんげんぞく獣人族じゅうじんぞくの組織のバイアクセル。植人族しょくじんぞくのドリアードたちと魚人族ぎょじんぞくのマーメイドのマリンプラントと言う二つの組織が抗争を繰り広げていたな。

 ……他にも死人族しびとぞくのゾンビと霊人族れいびとぞくのゴーストであるゴアズアークが暗躍していっけ。

 ……思い出したらキリがない。今まで最果ての図書館で頭痛など感じるよりも、怠惰に過ごすことばかりを退屈を覚えるだけの日々だったのに。

 というか、犯罪組織なんてある時点でこの世界にも抗争や戦争がゼロじゃない、という裏が取れたようなものだ……はぁ。


『……魔女?』


 いいわね、流石異世界だわっ!! まるで異世界人の漫画という物にある展開に近いじゃない!! いいわ、これでなくては異世界にきた意味がないもの!!


『魔女、興奮ボルテージマックス』


 余計なことは言わなくていいの!!

 ティアレーゼが興奮のあまり口元を隠す。

 マインベルに怪しまれないためだ。興奮しすぎて今笑顔になってしまったら彼女に不審がられてしまう。


「アスティ? どうしたの?」

「あ、いえ……でもお父様は人殺しなんて、しないですよね? 医者なんですもの」

「ローゼンベルグの当主はアスティの義理のお兄さんであるベリスがなってくれているわ、クロヴィスは医者なのは本当よ。あくまで家系的にいうなら、マフィアというだけだもの」

「そう……ですか」


 だったら、義理の兄というベリスとは会っておかないとな。

 私の今後のことも考えて、彼と話をつけておくのことは筋が通っている気がするし、どういう人物なのかも知る必要性がある。


「お母様……頭がクラクラするので、自室に戻ってもいいでしょうか?」

「場所はわかる?」

「いいえ」

「わかったわ。じゃあ、一緒に行きましょう」


 私はマインベルの手を握りながら、自室にまで連れて行ってもらうこととなった。


「ここがアスティの部屋よ」

「ありがとうございます、お母様」

「疲れたでしょう? 今日はゆっくり休んでね。晩御飯の時は呼ぶから」


 にこやかに笑顔を浮かべマインベルはアスティリアの部屋から去った。扉が閉じたのを見計らってアスティリアはようやく、ベットにダイブしてゴロゴロし始める。


「疲れたわ……ようやくベットね」


 アウェスで体力向上のバフをかけてもらったせいもあってか、全身に一気に筋肉痛が襲ってきた。もう、ベットに体が根を張った気分だ。

 魔女は、ベットの上でうつ伏せになりながら自分の従僕じゅうぼくの名を呼ぶ。


「……アウェス」

『魔女、何を所望?』

「……夢の中でアスティリアの意識に働きかけて。順番が逆になってしまったけれど彼女とするわ」

『承認』


 短い返答に、私はゆっくりと寝るために必要最低限のことを行うことにする。

 クローゼットからアスティリアが使用していたであろう寝間着に着替え、就寝することにした。瞳を閉じて、私は転生の秘術で眠りについているアスティリアの精神を夢の中へと誘った。

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