第5話 屋敷へ

 私と流鴬は二人で倉庫の外で待っていた。

 もちろん、彼に指示して他の男共は全員縄で拘束してある。

 後は、私のお父様とお母様が迎えに来てくれるのを待つだけだ。


「大丈夫か!? アスティ!」

「どこもけがはしてない!?」


 父親だと思われる金髪の若々しい男性が私に声をかけてから、銀髪の綺麗な美女な母親らしき人物二人の腕の中に抱きしめられる。アウェスに情報を探りたくても、勇者にパスを閉じられたせいもあって調べることができなかった。

 アスティリアの中にいるティアレーゼは瞬時に無表情になって思考を回す。

 ……うん、ここで下手にアスティリアのフリをするのはよくない、ということでルオウとは事前に話合わせを済ませてある。


「……ごめんなさい、貴方たちが、お父さんとお母さん、なんですか?」

「何を言ってるんだ? アスティ」

「私、何も覚えてないんです。貴方たちが誰なのかも、ここが、どこなのかも」

「……おい」


 ギロ、と二人に見えないように私はルオウを睨む。

 私と父親らしい人物からも睨まれてか、私の言った筋書き通りに彼はしゃべる。


「お、俺はその子を助けただけです! あの男たちに、俺の家庭事情が金がないって知ってるから……それを、出汁にされてっ、見てられなくて勇気を出して彼女を助けたんです!!」

「……すまない」

「い、いえっ……小さい子を、誘拐するような奴らの同類になってしまう前に気づけたので、よかったです」

「……怖かった、です」

「アスティ……っ」

 

 ――演技が凄すぎる、俳優の娘じゃなくて医者の娘、ってのが意外なんだけど。


 ピクリ、と私は演技を付き合ってもらう代わりに、彼が私の奴隷の契約をしていた。だからこそ、彼の心理が私の脳に声として聞こえてくる。

 母親の女性に気づかれないように、ギロっと私はルオウを睨んだ。


「ッヒ!!」

「? どうしたんだ?」

「あ、え、えっと……見返りを求めるようで悪いんですが、貴方の屋敷に使用人として、働けたりしないでしょうか……?」

「ああ、もちろん。娘を助けてくれたんだ、それくらい構わないさ」

「あ、ありがとうございます!!」


 ……これで、ルオウの家庭事情を問題なくできたわね。

 後は、屋敷に返ってこの世界の情報を調査しなくては。

 私は顔を上げ、青ざめた表情を母親に見せる。


「お母、様? ちょっとクラクラします」

「貴方、そろそろ屋敷に帰りましょう?」

「そうだな、はやく帰ろう」


 ルオウが余計なことを考えて居そうので私は母親の腕の中から飛び出して、ルオウに抱き着く。


「お兄さん、少し屈んでくださいますか?」

「あ、うん」


 彼が前屈みになって、小声で聞いてくるのに耳元で囁いてやった。


「話したら、貴方自身と弟たちの未来がないと思いなさい」

「ヒッ」

「? どうしたんですか?」


 ルオウが小さな悲鳴を上げたのにお父様は気づく。

 私は彼の横腹を抱きしめるという形で、脅しの意味を込めて腹を抓る。


「お父、様? お兄さん、怪我をしているの! はやく見てあげて!!」

「なんだって!? それを先に言いなさい!! ほら、君も私たちの屋敷に来るんだ!!」

「え? え、っと、え、えぇええ!?」


 ルオウは強制的に腕を引っ張られ、車に乗せられる。

 お父様は強制的に車に乗せて、私たちは自分たちの屋敷へと向かうこととなった。

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