第3話 転生した私の名前
私は乱暴に下ろされると、バンと力強く扉が閉じられる音がした。
紙袋を外され、私は周囲を確認する。
「――……ここは?」
気が付けば、港の倉庫と見ただけで認識できる場所に連れ込まれたようだ。
鼻に潮の香りがするのだから、間違いない。
「……っ」
立ち上がろうにも腕に拘束をつけられたようで、立つのは無理なようだ。
あの謎の男は、一体何を目的に私をこんなところへ……?
想定できるのは、金目当てが第一候補なのは上げられる。富裕層の娘という想像を掻き立てられる見た目の少女は、誘拐されるとしたら何かの交渉を要求するためのいうのが、すぐに理解できる。
ここで魔法が使えるかどうか、確認すべきかもしれない。
周囲に死霊がいくつもいる感覚がする。
……死霊たちに宿っている怨恨の魔力を、私自身の魔力に転換する。
私の体中のマナが満ちていく感覚を覚えて、私は小さく息を吐く。
よし、今なら――!
「……転生したからって起動で誤動作はやめてよね、アウェス」
少女の姿をした魔女は、己の持つ魔眼を起動させるため一度目を強く閉じる。
「おい! 何してる!!」
「っ」
気づかれた……!?
私は慌てて目を見開き、魔眼の起動をやめて息を潜める。
薄いマナが集まってできた魔力を手に集めておくだけ集める。
転生前の村人に魔力を視認できない一般人がいたが、その可能性を賭けて手にナイフを想像する準備をしておく。
聞き耳を立てて、少しでも彼らから転生した私の情報を探ることにした。
「えー、いいだろー? 酒くらい」
「仕事をしっかりやれ、ボスに知られたらどうすんだ!?」
「あはは、悪い悪い」
高圧的な男がだらけている一喝している。
なんだ、気づかれたわけじゃないみたい。
けど今、下手に魔眼を起動しないほうがいいかもしれない。
息を殺せ、私。
「……で、あの子の名前、なんだっけ? アスティリア・ウィル・ローゼンベルグ、で合ってるか?」
「おう、ちゃんとフルネームで覚えてるじゃねえか」
「だって大金をゲットしたら医者夫婦の二人ともども殺すって話だろぉ?」
「……お前にしてはよく覚えてんじゃねえか」
「まあ、俺はかわいい子好きだからな」
「……アスティリア・ウィル・ローゼンベルグ」
小声で私は転生した自分の名前を初めて口にする。
まずその名前が転生した私の名前、ということか。
「で? 本音を言ったらどうだ?」
「いやぁ、ちょっとあの子と大人の遊びをしたいなー、なんて」
「お前……本当に幼女趣味だな」
「へへへ、どーもぉ」
ぞぞぞ、と子猫の全身の毛を逆立てる感覚をこの時、納得してしまう自分がいた。
幼女趣味とか、どういう特殊性癖なの?
特殊性癖を上げるなら間違いなくあの勇者だろう。私のことを姉だとか言ってくる勇者にファーストキスを捧げることになるとは想像もしていなかったのだから。
イマジナリーシスターの概念を押し付けてきていたのだから、彼も同類かもしれないな。思い出しただけで、さらに寒気がしてくる。
「でも、本当に脅迫して金を巻き上げるなんてできるのかぁ?」
「あのお人好しで知られてる医者夫婦のローゼンベルグ一家なら、可愛い娘を殺すとでも脅迫すればあっさりと金は積むだろってボスが言ってただろ」
「いやぁ、楽しみだなぁ」
まず私は情報を整理することにした。
医者の夫婦……それにしてはやたら豪華な部屋だったように感じる。富裕層なのは確定しているけどあれが医者の娘の部屋なのは、どうも信じがたい……まるで、たちの世界にもあった組織犯罪集団、というカテゴリーの娘にあてはめてもおかしくないような部屋でもあった。
王族、とまではいかないがただの医者夫婦の娘にしては娘の部屋に金をかけすぎている、というか。魔眼を発動できない今、正確な情報収集ができない。
でも、私は急いでマナを魔力に変換し、彼らへの抵抗策を立てるために腕をもぞもぞとしていた。
「? おい、ガキ何してる!?」
「……お、オジ様、ここはどこですか?」
私は子供らしく、怯える子供を演じる。
涙目を浮かべるのも、脳内で冷静に作戦を組み立てるための準備をするためにも。
「なんだぁ? ガキ」
「わ、わたくし、お父様と、お母様に、会いたいだけなの。こ、怖いこと、しないで……っ」
……さぁ、どう出る? 卑しい男。
このまま私に手を出そうとするなら、都合がいいわ。
そのまま、お前の首を掻っ切ってやる。
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