誓い
『絶対みんなで生き残ろうぜ!! 隆史、俺たちゃ親友だからな!』
『お、おい、なんで毒だと分かったんだ!? お、俺はまだ死にたくな――』
『小山内くーん、マジこのゲームなんなの? ていうか、あーしどうでもいいや』
『……隆史、はぁはぁ、た、楽しかったよ、あなたと一緒にいら、れて――』
『隆史はこういう細かい作業好きだったもんね。……はあ、みんな仲良く出来ないかな』
『た、隆史? ねえ、なんで南ちゃんを殺したの? あの子はまだ子供だったんだよ!!』
『ううん、あなたの手助けはもう二度といらない。私は魔王側だしさ。哲郎君が守ってくれるよ』
目を瞑るだけであの日の光景が蘇ってくる。
もう二度と戻りたくない地獄のような日々。
衛兵の格好をして仮面を被った運営スタッフ。その中でもきらびやかな服を着ている将校たち。
『お前らはテレビゲームみたいに楽しめばいい』
『そうだ、これはゲームだ。犯罪にはならない』
『小山内君、まさか君が最終決戦まで生き残るとは誰も予想していなかった』
必死だった。生き残るためにはどんな事もした。
だが、ある一線を引いていた。俺を殺そうとするプレイヤー以外には手を出さない。
信用できるプレイヤーは信じる。そうしないと取り返しがつかなくなると思ったんだ。
嫌いだった同級生は、本当は話せば良いやつで親友になれた。
仲が良いと思っていた生徒に何度も殺されかけた。
初回のゴブリンゲームが人の本性を暴き出した。
冒険者側とゴブリン側に分けられ、洞窟内で殺し合いをする。
――思い出したくなくても身体にこびりついている。
自室のベッドの上であの頃の事を思い出す。デスゲームが終わっても俺は両親に会うことができなかった。
優しかった両親……。
『隆史! 給料五千円上がったぞ! これで弁当を少しは豪勢にしてやれるぜ!』
『バイト? あんた勉強好きでしょ? 家計の事は気にしないの。じゃあ大きくなったらご飯ごちそうしてね』
両親が失踪した家で俺は眠れぬ夜を過ごした。
***
顎に衝撃が走った。
あまり痛くない。どう反応していいかわからない。
俺を殴った男は荒い息を吐いていた。
「て、てめえが……、内海を見殺しにしやがったんだ!! なんであの時助けなかったんだよ!! あいつは俺の女なんだよ――」
教室のど真ん中で起こった乱闘騒ぎ。
他の生徒は興味なさそうに俺を見ていた。
これが俺の日常だ。殺された知人から責められる毎日。
ストレスのはけ口にされていたのだ。
内海は、最終ゲームで俺を庇って内臓が飛び出して助からない状態に陥った。
学校で話したことなんて無かった。内海はギャルで俺と正反対の性格をしていたんだ。
俺が大切な幼馴染と決別した時、内海は俺と共にゲームをクリアすることを選んだ。
絶望の淵に立たされた俺たちは本音で語り合う。
内海は俺にとって大切な仲間。
誰にもそれを汚されたくない。
いつもなら無言で暴力を受け入れる。
あのゲームが終わって二ヶ月。頭を整理するには十分すぎる時間だ。
再び拳が飛んでくる。
俺はその拳を掴んだ。
「いっつっ!? て、てめえ犯罪者の分際で――」
犯罪者か……。笑いたかった。
だけど、笑うことなんてもう忘れてしまった。
「……内海が言っていたしつこい男か。……盗撮はもうしないのか?」
「お、お、おい!? お、俺は、そんな事――」
「俺は内海に頼まれた事が色々あるんだ。……伝言をくれてやる」
男の腹に拳をめり込ませた。
いつしか慣れてしまった暴力。暴力を振るっている自分が大嫌いなのに、暴力が俺を救ってくれた事実。内海は暴力を振るった俺を肯定してくれた。
「――――ッ!?!?」
男は俺が攻撃すると思っていなかったようだ。人を殴るなら殴られる覚悟を持て。
倒れた男の顎を蹴りぬいた。
教室がパニック状態になった。
「え? あ、あいつなんで反撃してんだ?」
「ていうか、警察呼べよ!?」
「殺されるぞ!!」
「ナイフで首切られちゃうよ!」
そんな中、俺は自分の席へと座る。
こんなもの茶番だ。勝利者の行動なんてどこかで配信でもされているだろう。
きっとこの教室の中で運営側の人間がいるだろう。
ほら、気配を張り巡らせると動揺していない奴が数人いる。
それに小さな監視カメラが常にどこかにある。
俺の行動なんて筒抜けだ。殺した知人の元で苦しむ姿を見ているんだろ?
こんな面白いおもちゃを警察に渡すわけない。
心の奥底から怒りが湧き上がってきた。
どうにも止められない。
『えへへ、た、隆史……、私ね……、最後に、キスしてみたいな。……好きな人と初めてのキスを……。隆史……大好き』
俺がキスをした瞬間、息を引き取った内海。
俺は心に誓ったんだ。
必ず、俺は、このゲームの運営者をぶち殺す、と―――
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