女友達はいらない
『いいか、俺はガキが嫌いなんだよ。仕方なくチームを組んでるだけだ』
『ちっ、青臭い事言ってんじゃねえよ。てめえ、殺されてえのか? はんっ、死んだ奴の事なんて忘れろ』
『……全体を俯瞰して見ろ。そうだ、信じられる奴を見極めるんだ。俺みたいなやつはすぐに裏切るぞ。そろそろ行くか……』
『――俺も焼きが回っちまったか。こんなクソガキを、庇って、はん……、わ、るくない、時間……、死ん、だ、息子、みた……だ……った――』
おせっかいな大人が沢山いた。
俺を残してみんな死んでいった。
それでも大人たちは俺に知識を残してくれた。
運営がとてつもなく巨大である事は理解している。
アリが象に立ち向かうのと同じだ。
それでも――立ち向かうと俺は決意したんだ。
***
教室は今日もいつもどおりの風景を俺に見せる。
騒がしいクラスメイト。恋バナをしたり、ゲームの話を楽しそうにしたりしている。
あのデスゲームはこいつらにとって他人事だ。同級生が死んだとしても、一瞬だけ涙を見せれば終わりだ。
……人は簡単に死ぬし、簡単に殺せない。
「てかさ、俺があのデスゲームやったらマジで全員ぶち殺せるぜ」
「ちょっと不謹慎よ、あんた。やめなさいって」
「あん? お前、小山内の事気を使ってんのか? あいつの事好きなの? あいつ人殺しのクズだぜ?」
「はぁ……、違うから。……クラスメイトが死んだのに不謹慎でしょ。そんなのもわからないの」
「……わかってんよ。でも、あんな事二度と起こらねえだろ? 不幸な事故みたいなもんだよ」
クラスのひょうきんものと話しているのは俺の幼馴染の女友達だ。
幼馴染を通して、俺は女友達と仲良くなった。
三人で色々でかけた。時には後輩も乱入しててんやわんやの大騒ぎであった。
……そんな思い出は砂のように崩れ落ちていった。
――大丈夫、私は分かっている。あなたは悪くない。運営が全て悪いの。
全部忘れて幸せに生きればいいのよ。
デスゲームの後、教室で再会した女友達の言葉だ。
私だけがあなたを分かっている。私だけが味方でいてあげる。
……心に何も響かない言葉であった。
俺の苦しみは誰にも渡さない。誰にもわからない。あの空間にいた奴しかわからない。
……唯一生きている奴でわかるとしたら、運営側の下っ端だろう。
アイツらは容赦なく殺されていったんだから。
俺にこっそりアドバイスをくれた下っ端は次の日殺されていた……。
今朝からクラスメイトの俺を見る目が少し変わった。
今までは俺はサンドバックのように殴られて、罵声を浴びせられていた。
俺が反撃をしたら生きている人間だって、コイツラは認識出来たんだろう。
俺は人を殺したろくでなし。あのデスゲームを見ているはずなのに、人は記憶を切り取り自分の都合の良い物語に変えてしまう。
深呼吸をして心を落ち着ける。
もう、何も感じない。
無駄な繋がりは、これから起こるであろう俺の復讐には必要ない事だ。
「あっ、キタキタ! 遅いよ、ミホちゃん」
「う、うん、遅れてごめんなさい。え、えっと……」
「大丈夫よ、私が横に付いてるもん。昨日、おうちで喋った感じでいいと思うよ」
「すーはーっ、う、うん、で、でも……」
女友達と後輩が俺を見ていた。
俺は二人を見て不思議に思うことがある。
なぜなら、後輩の兄貴……同級生で友達だと思っていた。だが、あいつはゴブリン並みの外道であった。
言葉で信用させ、人を騙し、弱いものには強く、強いものには媚を売る。人間として最低最悪であった。
そして、女友達の山田。こいつの親友である幼馴染は最後の最後に死んだ。
――俺が殺したんだ。
それなのに、なんで俺と話せるんだ? なんで普通に接しようとしているんだ?
後輩が俺に近づいた。
昨日の雰囲気と違う。兄を殺したって罵倒をする感じではない。
「え、えっとね、先輩……、わ、私、今まで言い過ぎたかなって……。昨日、山田先輩と話していたら、色々昔の事思い出して……、もう死んだ人は帰ってこないけど、先輩は生き残ったんだもんね。……ひ、人を殺しちゃったけど、し、仕方なかったもんね。――だから、私、先輩が立ち直るまで、山田先輩と一緒に支える事にしたんだ」
女友達――山田、下の名前は忘れた。
女友達が俺の肩をポンポンと叩く。
「にしし、そうだよ。みんな応援してるよ! だって、唯一生き残った勝利者でしょ? 私達以外にも陸上部のコズエちゃんや、生徒会長とかも心配していたよ? ねえ、今度みんなで会おうよ……。ねっ?」
目の動きで人の感情がわかるようになった。
こいつは俺の心配なんてしていない。自分が他人からどう見られているか気になるだけだ。
「……俺を支える?」
「う、うん、やっと私お兄ちゃんはいなくなった事に向き合えたんだ」
昨日までの後輩は、毎日のように俺を罵倒していた。
それこそお前が死ねと言わんばかりに。
この落差はなんだ?
「ま、また昔みたいに一緒にいたいな……、ね、ねえ、私達――」「――消えろ」
俺は言葉をかぶせて後輩に伝えた。
どうやら、後輩たちは理解していないらしい。所詮映像越しにしかわからない。
あの地獄のような出来事を他人事のように話すこいつらが俺は気持ち悪かった。
「え、え? せ、先輩?」
俺は席を立った。
女友達は俺の後を追おうとしていた。
「ちょっと、後輩ちゃんが勇気を出して全部水に流そうとしているんじゃん! あんた男としてどうなの! ていうか、その態度はちょっとないよね?」
「そうだそうだ! ミホちゃんが可哀想だろ!」
「マジ鬼畜じゃん」
「うわー、ダッサ、逃げてやんの」
クラスメイトもざわつき始めた。
が、俺には関係ない。
女友達も後輩も俺にとって他人だ。
……俺は少し思うことがあり立ち止まった。
自分の席に戻りカバンをごそごそと探る。
女友達と後輩は怪訝な顔で俺を見ていた。
カバンから取り出したのは札束の山である。勝利者としての賞金の一部。
「……ゲームをしよう。勝ったらこれをくれてやる。ゲーム内容は一週間俺に話しかけない事だ。これは教室の後ろに置いておく――」
俺は辺りを見渡す。
大金を目の前にして生徒たちは浮足立っている。
女友達は俺に意識なんて無くなった。金にしか目がいっていない。
後輩は戸惑って、俺に話しかけてこようとしたが、慌てて口を塞いだ。
全体を俯瞰して見るんだよな、おっさん。
この中で冷静な生徒が二人。感情の乱れが見られない。
その時、教室のどこかからか小さな音が聴こえてきた。
『ザザッ―――――――ピッ。――了承しました』
俺は全身の毛が逆立つのを感じる。
忘れられないアナウンスの声――
ゲームは終わっていない。たった一言しか流れなかったその言葉にどれだけ重みがあるか、俺にしかわからないだろう。
お前らは残酷で面白いゲームが見たいんだろ?
なら、俺がいつか舞台に引きずり下ろしてやる。
小さな一人の人間の力だと思って侮ってろ。必ず……お前らを――
俺は内海が好きだった歌を口ずさみながら、騒然となった教室を出ていった――
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