デスゲームから帰ってきた男の絶望

うさこ

勝利者


『第102回異世界デスゲームの勝利者は、小山内隆史おさないたかしとなりました。ご視聴まことにありがとうございます。次のゲームの開催は――』


 慣れ親しんでしまったアナウンスの声が頭の中でガンガンと響く。

 血塗られた俺の手は震えている。

 勝ち残った。このクソッタレのゲームの勝利者。

 そんなもの何も嬉しくない。クズでダメ人間だった俺が勝てたのは……仲間のおかげだった。

 開始時には千人のプレイヤーがいた。

 それが今は俺一人。


 ショッピングモールにいたんだ。気がついたら異世界ファンタジーのような島の中にいたんだ。学校の友達もいたんだ。恩師の先生もいたんだ。……大切な幼馴染も、いたんだ。


 吐き気がこみ上げて仕方ない。

 涙なんてとっくにでなくなっている。

 胸に穴が空いた気分であった。

 ゲームの運営側の憲兵が銃を向けながら俺にガスを噴霧していた。


「―――――――――ッ」


 声にならない言葉を上げることしかできない。

 そんなぐちゃぐちゃな感情の中、俺は……、段々と、意識が遠くなり……。

 俺はもう日常になんて戻れないと思った――






「おはよ! 今日の宿題やった? ねえ見せてよ」

「なんだよ、やってねえのかよ。仕方ねえな」

「おう! 昨日の配信みたか?」

「え、どれの事言ってんのよ。あんたはわかるようにいいなさいよ!」


 俺、小山内隆史は普通の日常を送っている。

 あの日から二ヶ月が経った。以前と何も変わらない生活。

 ……変わった事は、俺のクラスに空席が目立つ事だ。


 俺と一緒にデスゲームに強制参加させられた生徒たちだ。もう二度と帰ってこない。

 のこのこと帰ってきた俺に居場所なんて無かった。

 なぜなら、あのゲームは参加者の知人にだけ、招待制の配信を行っていた。

 ……知人に支給されたPCにはカメラが付いていた。知人の様子がこちら側に定期配信されていた。

 壊れていく俺たちを見て、壊れていく知人たち。

 人の本性が暴かれる。それは、地獄のような光景だった。


 都市伝説としてあのゲームの存在を聞いた事があった。

 まさか本当にあるとは誰も思わなかった。

 このクラスの大半があのゲームを見ている。

 クラスメイトが死んでいく瞬間を、俺が人を殺す瞬間を……。


 誰も俺に話しかける生徒はいない。

 元々クズでダメ人間であった俺の帰還を喜ぶ人間なんていない。

 会いたかった両親は失踪していた。大切だった幼馴染はもういない。

 夢だと思いたいけど、あれは現実にあった出来事……。


「んだよ、あいつまた苦しそうな顔してやがるな」

「マジ、あいつが死ねばよかったのに」

「はぁ、てか関わるとヤバいだろ? 殺されるぞ」


 全部見られていた。

 時には騙し合い、時には協力しあい、時には……殺し合い。


 俺はどうやら人を殺す才能だけはあったみたいだ……。




 放課後になり、俺は誰もいない家に帰ろうとする。

 何をする気力も沸かない。汚いお金だけは口座に沢山ある。そんなものいらない。


 カバンを取ると、俺に声をかけてくる生徒がいた。


「……隆史、あんたなんで生きてんの? 私のお兄ちゃんを殺したくせに……」


 一番仲が良かった後輩。俺を慕ってくれて、一緒にデートもしたことがある。

 デスゲームの前日、呼び出されて手紙を貰った。


『う、うちに帰ったらゆっくり読んで下さいね! 絶対ですよ!』


 俺は手紙を読む前に、デスゲームに参加することになってしまった。



 そんな後輩は俺の事を憎悪の眼差しで睨みつけてくる。

 ……デスゲームは終わっていない。

 俺は様々な人から憎悪を向けられていた。


「……卑怯者。あ、あんたが死ねばよかったのよ!!!」


 俺は何も返事が出来ない。

 あの時の状況は俺たちにしかわからない。

 あんなにも仲が良かった後輩はもういない。大切だった幼馴染はもうこの世にいない。仲間だった友達もおれを庇って……。



 俺は何も言えずに席を立った。

 後輩の言葉が銃弾のように胸を貫いた。


 だが、今の俺は痛みを感じる心なんて無かった。





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