書籍化作家さんに言いたいこと
書籍化された作家さんは、もう『作家さん』です。
私たち素人作家とは違います。
違うのは分かっているのですが、あまり急に態度や接し方を変えないで欲しい。
変わらないで欲しいなと思います。
言いたいことというより、お願いです。
書籍化された作家さんは、こんな『落選』なんてついているタイトルのものは読まないと思いますので、届かないでしょうが今これを読んでいる方の中には、将来書籍化される方もいると信じますので、そういう方に忘れないで欲しいという願いを込めて書いてみます。
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人はライフステージが変わると、考え方も感じ方も交友関係も態度も色々と変わっていきます。
もちろん変わらない人もいるでしょう。
けれど多くの人は、友達や仲間だと思っていた人が、進学や就職、結婚などで段々と話が合わなくなり、疎遠になっていくことを経験したことがあると思います。
同じ学校で学んでいる友達は、友達ではなくてもクラスメイトくらいでも話が合うし、仲良くできます。
けれど、進学して別れてしまうと、またそれぞれの場所で違った交友関係が広がり以前の友達とはなかなか会う機会もなく、話も合わなくなってくる。
大人になってもそれは同じで、就職や結婚をすると、やはりその場所でそれぞれの営みがありますので、考え方や価値観も変わってしまいます。
同じ漫画やアニメが好きだった友達が、結婚や出産でその話に一切の関心が無くなってしまい、合うたびに旦那さんの愚痴や子供の自慢話ばかりになることはよくあります。
寂しいですが仕方がないことです。
生活の主軸が変われば、優先順位や大切にするものも変わってきます。
ライフステージが変わると、考えかたや価値観、感じ方にも変化がある。
これは当たり前のことで、ある意味成長とも言えるので、悪いことではありません。
けれど、残された人は少し寂しい気持ちになります。
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同じように、投稿サイトで同じ釜の飯を食べていた仲間や感想を書き合い、友達だと思っていた人が、書籍化を機に変わってしまうことがあります。
忙しい忙しいと、更新も無くなり、感想やいいねもリプライも来なくなり、編集さんとの打ち合わせや校正の進み具合だけがタイムラインに流れて来る。
住む世界が違っていることをまざまざと見せつけられ、一抹の寂しさを覚えますが、ライフステージが変わってしまったのだからしかたないことです。
私たちは、自分が目にすることの叶わない本の出来る過程を目にできるのですから、貴重な情報として受け取り、いずれ自分もと目標にし、応援するしかないでしょう。
落選ばかりの私たちは書籍化の大変さを知りません。
本を作るという仕事のことも、書くことを仕事にすることの大変さも本当の意味では分からないのです。
残されたこちらの側の寂しさが分からないように、書籍化作家さんも価値観が共有できない寂しさを感じることもあるかも知れません。
書籍化作家さんは、書籍化作家さん中心のコミュニティになっていくのは当然のことです。
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以前、同じように投稿をがんばっていた物書き仲間がいます。
オンラインのお友達です。
私は、このエッセイのとおり落選続きでまったくもって才能がありませんでしたが、彼女はおしいところまで何度も迫る実力者でした。
けれど、WEBでは小説を公開せず創作仲間は少なかった。
ここまで小説投稿サイトが一般化する前の話なので、WEBに投稿をするとパクられるということを懸念していたそうです。
なので、彼女は自分の小説の見せて感想を聞くのはオフラインの友達とオンラインでは私と数人だけだと言っていました。
公募する以外の小説は書かない。
彼女はよくそう言っていて、書くのは公募の為、作家になりたいが為という明確な目標を持っていました。
私よりも少しお姉さんだったその人の強さに、とても憧れをもって応援していました。
そして、何度か公募用の原稿の下読みをさせてもらいました。
誤字脱字のチェックや表記ゆれなどの気になった点などの指摘です。
いつも完ぺきな原稿で、お金を出して読まなければいけないレベルだと拝みながら読ませていただきました。
投稿する以外の小説は書かないと言っていたのに、私には書きかけや未完の原稿も読ませてくれたので、信頼されていると思うと誇らしく、うれしくもありました。
結局、彼女は大きな賞をとることはありませんでしたが、某出版社の原稿募集という広告に原稿を送り、それが目に留まり書籍化されました。
今では、書籍化は電子を含め20冊以上のベテラン作家さんです。
もう、私が原稿を見なくても編集者さんが端から端までチェックしてくれるのでしょう。
それきり、私に頼むことはなくなりました。
当然です。それはもう書籍になることが確約された大切な商品なのですから、どこの誰ともわからない私なんかが読んでいい物ではなくなってしまったのです。
私は、何度も彼女の小説を下読みさせてもらいその価値が分かっていたので、お金を出して書籍を買えばいいこと。
本を買って、今まで通り応援すればいいとすぐに納得しました。
感想もそれまで通りメールで送りました。
しばらくそうして感想などで細々と縁がつながっていたのですが、SNSでのやりとりのなかで決定的に、素人作家と職業作家は違うなと感じることがありました。
それは、彼女が新作の中で登場人物の服装について悩んでいた問いに、私が「こういうのはどうですか?」と提案したところそれはもう検討して却下した案だとつれなく言ったのにも関わらず、他の書籍化作家さんが似た提案をしたときは『それもいいですね。検討します!』とほぼ同じなのに良い感じの返事をしていたのを目にしてしまったからです。
まあ、無下にされたように感じたのは、あくまでも私の主観ではあります。
少し考えれば、相手にも事情があり、作家同士の交友関係やパワーバランスなどもあっての対応の差だったのかもとも思えます。
けれどそう理由をつけても、私はその対応の差に書籍化作家と素人作家の垣根を感じました。
私が書籍化された作家だったなら、そういう対応はされなかったのでは?
と思わずにはいられませんでした。
その後も、あのときは忙しかったための態度だったのかもしれないと、時々リプライをしていたのですが他の書籍化作家には返信しているのに、私にだけは返信されないということが度々あり、関係が終わったことを感じました。
なんと言えばいいのか、書籍化された作家さんの大変さや苦悩は、同じライフステージに立つ書籍化された作家さんしか共有できないんだと思います。
それは仕方のないことです。
書籍化されたことのない私には、その苦労を共有することは出来ませんから……。
書くことの大変さや苦労も、素人作家の時とは全く異なるのでしょう。
色々と変わってしまうのは仕方ないとは思いますが、変わらないで欲しいというのが切なる願いです。
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書籍化された作家さんも、以前は私たちと同じ素人作家さんだったはずです。
その時の気持ちを忘れてしまうわけではないと思いますが、今までとは違う書籍化という次のステージに立つことで忙しく、今までのように自由に書けなかったり、ひとりだけの判断や想いだけではどうにもならないことが出てきたりと、書籍化作家ならではの大変さがあると思います。
素人作家には分からない、相談できないことも増えてきます。
お仕事ですから、情報漏洩になってもいけないですし、制約も増えます。
だから、今までとは異なること、変わってしまうことは理解します。
疎遠になることも仕方ないとも思います。
ただ、どうせ素人作家にはわかるまいと思っても、あからさまな態度や言葉にはしないで欲しい。
私がフォローしている人にはそういう方は見受けられませんが、リツイートやおすすめなどのツイートから、書籍化作家とは言えあまりにも素人作家を馬鹿にしたような言動が目立つ方もいます。
リアルの人間関係の時に、ライフステージの変化で疎遠になるのは仕方がないといっておきながら、物書きとしてのステージが変わったのに、変わらないで欲しいと言うのも矛盾していますが、万年素人作家の私の素直な気持ちです。
同じカクヨムや他投稿サイトで一緒だった素人作家は、同じ釜の飯を食べた仲間みたいなものです。
ですから、あなたが書籍化されて作家になったなら、素人作家も書籍化作家も根っこは同じ『物書き』であることは忘れないで欲しいです。
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