第38話 未ジュクナデシ子

 彼は左手の薬指に指輪をしていた。


 「えっ...?」

彼に聞こえるか聞こえないかの声で、思わず声がでてしまう私。

だが彼にはその微かな声は届かず、そのまま先を行き、人混みの中へ消えていった。

一度も振り向く事もなく。


私はその場で立ち止まり、頭で整理をしようとした。


圭、結婚した?


だとしたら早くない?


左手の薬指だから彼女って場合もある?


彼女...誰だ?


まさか...あの人と結婚した?


もしそうだとしたら、全て彼の演技だった?


あの人を自分に引き付けるために?


わざわざ教師を辞めてまで?


でもいつもと違うスーツを着ていた。見た感じ学校の教師ではなさそうだったけど。


でもあの人はまだ教師をしているはずだよね。


確か県外とは言ってたけど、それまでもが嘘だとして、もし近くの学校にいるとしたら...。


彼はあの人を迎えに来てたからこんなところにいた?


じゃああの私に書いた手紙は何?


私はいろいろ考えた。


いろいろと....。



だが、結果何もわからなかった。


というよりか正直どうでもよくなった。


彼の手につけてる指輪を見た瞬間、ショックというよりも、冷めた気持ちの方が勝ってしまっていたのだ。


彼も彼で、自分自身の未熟さに反省し、成長しようとしていたのだろう。

その結果の指輪。


ただそれが私ではなかったという...。


ただそれだけの事。


彼と初めて会って、彼から甘く優しい香りがしたとき、私はこの人だと思っていた。


私は思っていたが彼は違った。


まだまだ未熟な私だもん。そんな事でわかるわけないよね...。



私の初めての純粋な恋は終わった。



私の運命の人は彼ではなかった。



 少し遠回りをして家に帰る私。美華の家の近くの公園に寄ってみた。


見たいものがあったから。


それは私とどこか似ている"ナデシコ”の花。

よく見ると前見た時より少し成長していた。


それを見て私はその”ナデシコ”の花に声をかける。


”私達成長してるね!これからも一緒に頑張ろう”と。

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