第37話 信号ノ先二

 そして一週間後。

美華が旅立つ日が来た。


新幹線で約2時間の少し遠い場所。

そこに彼女が通う大学がある。


私は見送りをする為、彼女の荷物を一緒に持ち、新幹線の改札口まできていた。


彼女の両親も引っ越しの手伝いをする為、一緒に来ている。


 「先にホームに上がっとくからねー」

彼女の母はそう言い、私達に微笑みながら手を振ってその場を離れた。


 「よおし!じゃあ私もそろそろいこっかな!」

こうやって改めて離れると思うと、寂しくなり、涙が止まらなくなる私。


 「もお~!唯愛。泣かないでよ~!ちょくちょく帰ってくるし、私の両親にも唯愛の事よろしく行ってるからさ。いつでも私の実家に遊びに来てもいいし、それに私が一人暮らしする家に遊びにきても全然いいからね!」

夜の美華とは全然違い、人前にいるときはしっかりとした頼れるお姉ちゃん。


 「うん!わかったよぉぉ~。絶対遊びに行くからぁぁ~!」

泣きじゃくる私を抱きしめて頭を撫でてくれる彼女。


 「ありがと!じゃあいくからねっ!またあっちに着いたらすぐラインする!」

そお言って何度も手を振り、彼女は旅立っていった。


今まで、当たり前のようにそばにいてくれた美華が急にいなくなり、寂しくなる私。


自分の身体の右側から、冷たい風が当たってくるのを感じ、私は思う。


美華。本当にいなくなっちゃった...。


でも私も頑張らないと。


美華と次会うときまでには、私もたくさん成長しとかないと。


そう決意し、私は駅を後にした。


ここの駅から自分の家まで歩いて約20分。

外の美味しい空気を吸いながら、家に帰る。


住宅地に入る少し手前の信号。


少し走れば間に合った信号を無理していかず、散歩を楽しんでいた私。

そこで立ち止まり、信号が赤から青になるのを私は待っていた。




すると横断歩道のその先で...。



なんとスーツを着た圭が歩いているのを見つけた。


 「圭!」


私は声に出して言うが、人混みと車の騒音でかき消されてしまう。


信号が青になるのを待ち、変わった途端、私は必死に彼を追いかけた。



会えるはずのない圭。


もういないと思っていた圭。


私の心の中にずっと残っていた圭。


私は人混みを掻き分け、必死に距離を詰める。


やっとの思いで手に届きそうなところまできた。


息を切らした私は、まだ私が追いかけていることも知らない彼に対し、声をかけようとする。




声を掛けようとしたその時。


ふと目に入ってしまった。





彼の左手の薬指。


そう。指輪をしていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る