第15話 大人ノキス

 あの坂上ゆみ先生。


また私がこうして何かしようという時にいつも圭の隣にいる。

本当なんなのだろう。この人は。


そしてふと、彼女の手に目が行く私。

左手の薬指に指輪がついているのを見た。


この人付き合ってる人がいる?


まさか圭?



 するとドアを開け立ちすくんでいた私を、何を感じたのか、彼女はチラッとこっちを見た。


そして私に気づいた彼女は、その場から彼に気づかれないよう私に少し微笑みかけ、その直後そっと彼の手を握る。


 それを見てしまった私は全てが結びつき愕然とした。


以前愛妻弁当を渡しにいった時二人が一緒にいるのを見て、もしかして?と思っていたがその予感はほぼ的中。


 圭とあの人は付きあっている。


私はそう思ってしまった。

誰もいない図書室に、こんな時間に2人っきり。

しかも私に対し、学校では教師と生徒の関係でいようと彼が言っていたこと。


これだと当てはまる。


.......。


私はずっと避けてきていた。


ずっと彼に彼女はいるの?って聞く事が怖かった。


それに私が告白したときに、彼は卒業してから付き合おうと言っていた。


あの時。

あの動物園の時の、彼の言葉は本気に言っているように聞こえた。


だから私も信じた。


なのにどうして...。


そう思いながら愕然としてるからか、顔も足も全く動かなくなる私。


ここからすぐにでも逃げ出したいのに...。


見たくもないのに...。


硬直している私を、彼女が見てさらに追いうちをかけてくる。



 圭にキスをした。



しかも大人のキス...。



今日流すはずのない一粒の涙がこぼれ落ちた。


私は大人が怖くなった。



未熟な女子高生の私には決してあの人には勝てない。


勝てるはずがない。


私子供だもん。


化粧の仕方もまだまだ。


胸だって先生より小さい。


感情にすぐ動かされちゃうし。


勝てるはずがないよ...。


どんどん精神がやられていく。

私の心臓に数々の鋭い矢が突き刺さりその後も、何度も何度もえぐってきた。


急にキスをされた彼が、何か彼女に対し言っていたのはわかったが、内容までは私の耳に入ってこず私はその場で倒れた。



.................。


 「....唯愛!唯愛っ!....聞こえる?!」

全身が柔らかい何かに包まれ、温かいこの感じ。


 「唯愛っ!」



そこには帰ったはずの美華が倒れかけていた私を全身で包み込み抱きしめていた。


 美華「大丈夫?今日の唯愛が手を振った時の感じが何かある気がして、それで心配になって...バイト行く途中だったけど戻ってきちゃったよ...」


私は彼女に対して今日は、いつもより元気に挨拶したつもりでいたはずなのに。


さすが美華。


彼女にしかわからない、私の微かな変化に気づき心配していたのだろう。



彼女の温もりのおかげで少しずつ記憶が戻り、周りを見渡す。

すると倒れていた私を、圭とあの人が図書室の中から見ていた。


....そう。


私は先生達の"あれ"を見て倒れたんだ。


ぼんやりとしか見えなかったが、圭は怒ってる顔なのか、ビックリしている顔なのか、心配している顔なのかとにかく必死な雰囲気が伝わってきた。


逆にあの人に対してはハッキリと見えた。ビックリし、心配している顔。


....さすが。


彼よりも私がいることに気づいてたのに。


本当。


大人は嫌い。


すると、私を抱きしめていた美華が私を支えながら立ち上がりこう言う。


 「唯愛。いくよ。そしてそこで見てる人達。今度唯愛に何か傷つくことしたら私が許さないから!」

その後、私を支え保健室まで連れていってくれた。


そしてもう一度私は思う。


大人は嫌いだ。

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