第14話 恋ノ全力走リ

 私はすぐに約束を破ってしまった。


圭に学校ではいつも通りしていようと言われたのに。

まだ一日しかたっていないのに、このもどかしい気持ち。


本当。抑えきれない。


彼は動物園にいたときとは違って、完全にクールで大人しい教師になっている。

その為話しかけたくても、なかなか自分から声をかける事ができない。


また二人で会おう。って言われたけれど、それがいつなのかもわからないし、今後本当に誘われるかどうかもわからない。


 だからこうして手紙を書き、彼に渡そうとした。


しかし書いたのはいいものの、今度は渡すタイミングが見つからない。


彼が授業をしている時は、教卓から一歩たりとも動かず、熱弁している。

興味がない授業の時は、気づけば教室からいなくなっているぐらいだった。

転入当初の時とまるで大違い。


でもどうしても渡したいと思い、私は放課後に渡そうと思った。

だけど直接は渡せない。


そこで私は考えた。

1週間程、捕まらない程度でストーカーのように放課後、彼の学校での生活を追って見ることにした。

そうすると、1つだけ彼に隙が存在した。


それは以前、私が彼にキスをされた図書室である。いつも放課後図書室に行き、同じ本を読んでいることがわかった。


手紙を本の中に挟めば先生も必ず見てくれるだろう。

そう思い、私は放課後ついに作戦を決行した。


そして作戦決行当日...。


 美華「唯愛ー!今日私バイトあるから先に帰るね。一人じゃ寂しいだろうけど気をつけて帰るんだよー」

いつもそう言ってくれる美華。

最近彼女はバイトが忙しいみたい。

そのおかげもあり、彼を観察することができた。


少々罪悪感はあったが仕方ない。


女子高生って会話で必ず恋の話になる。

前みたいになにかがあるごとに、私がすぐ不安な顔をしてしまうと、彼女にも心配されるし、ましてや彼の事なんてバレてしまったら大変な事になる。

そう。仕方のないことだ。


 私は彼女に手を振り、完全に廊下から姿が見えなくなった事を確認し、急いでカバンに荷物を詰めた。


先生もまだおそらく職員室。

生徒たちもポツポツとしか周りにいなくなった。

今しかないと思い、教室をでて全力で図書室に向かった。


...........。


 今まで私は本当に走る事なんてめったになかった。


あの彼と行った動物園の時以来。


運動も大の苦手だし、そもそも汗をかくことが嫌い。

なのに彼と出会ってから私は走ってばかりだ。


彼とのことで悲しくて走ることが今まであったが、でも今日は違う。


彼とのこれからの為に、私は前を向き走っている。


人を好きになることの凄さを知った。

走ることが嫌いな私を、恋が走らせているんだから。


そして、その前向きな走りを初めてした私はやっと図書室に着き、ドアを開ける前にカバンの中に入れていた手紙を取り出す。


 「学校でも二人になれるときはなりたいです」

その手紙をもう一度確認し、自分に気合いを入れドアを開けた。


するとそこには....。


この一週間、図書室に1人で来ていたはずの圭が....。


今日はその隣に、あの"坂上ゆみ先生"がいたのだ。

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