第12話 好キトイウ言葉

 動物園の入り口に座り空を見上げ、ボーっとしていた私。

そのまま帰ってしまえばよかったが、帰る気力すらなかった。


フラれたこの胸の痛み。


だから人間はなかなか素直に気持ちを出さないのだろう。

大人になればなるにつれて、駆け引きをしはじめ、相手の様子を伺い、大丈夫と思えば気持ちを伝える。

どうやって皆自分の”物”にしてるのか。

私に色気が足りない?


そういえばあのオスのパンダはメスの虜にされていた。

何も言わないのに、行くとこ行くとこついてくる。


パンダになりたい。


私はもう好きな人に自分の気持ちを伝えたくない。


そう思っていた。


 すると、動物園の奥の方から息を切らしている圭が私を見つけ立ち止まっていた。


どうして探すの?

私をフッたんじゃないの?

なんでそこまで必死なの?


私は圭の姿を見ていることができず下を向く。


その様子を見た彼が私の方に寄ってきた。


 圭「唯愛ちゃん...」


 唯愛「...」

私は黙っていた。また再度逃げ出したかったがもう足が動かない。


 圭「俺の話を聞いてくれ」

そお彼は言って隣に座り、ポケットから出したハンカチを私に差し出す。


 圭「俺は今、唯愛ちゃんの担任の先生だ。でも唯愛ちゃんに対する気持ちは本物だよ。だからこうして必死に探したし、動物園だって誘った」


 唯愛「...」


 圭「だから、唯愛。ちゃんと卒業してから付き合いたい。今日はこれが伝えたくて誘ったんだ」


 唯愛「...じゃあ卒業するまでは?」


 圭「...」


 唯愛「それまで先生と話せないの?」


 圭「...いやっ。今日みたいに休みで会える時は会おう。誰も周りに知った人がいない遠い所にいって」


 唯愛「じゃあ学校では?」


 圭「学校では教師と生徒の関係をきちんとこなす」


 唯愛「...わかった。じゃあ...」


 圭「じゃあ何?」


 唯愛「今ここで私の事好きっていって。それだけで私は卒業まで頑張れるから」


 圭「わかった。唯愛、好きだよ」


初めて彼に”好き”と言ってもらえた。でもどうしてだろう。

この言葉を待っていたはずなのに、この一言だけじゃ全然足りないと思ってしまう。


”好き”って言葉、私にはすごく大事で大切な言葉に感じていたが、実際自分自身がその言葉を受け止めてみると、私の胸にうまく突き刺さっていない気がした。


でも彼と約束した。

学校を卒業したら彼と付き合える。


その時にもう一度今の言葉を言ってもらい、本当の愛を感じるはずだと私は思っていた。


もう私は高校3年生。卒業まで約一年。意外とすぐだ。

私はその約束を胸にしまい込み、彼と再度立ち上がり、動物園を後にした。

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