第11話 動物ニナリタイ

 あの図書室以来だ。


彼と唇を交わしたあの日から私は圭の味を忘れていなかった。


微かに吐く息の奥から湧き出てくる彼の中の味。

一瞬足りとも忘れていなかった。


そう。この味。


私を一瞬で虜にしたこの味。


抑えきれない私の思いはどんどん彼を求めていく。


 「圭。好き」

私はこの言葉を何度も言い続けた。

彼はその言葉に対し何も答えてくれなかったが、唇を通して気持ちが伝わってきていた気がする。


ずっとこのままでいたい、離れたくないと思っていたが、他の人が来た為、私達は我に帰り距離を保った。


どうして彼はキスをまたしてくれたのだろう。


やっぱり私の事が好きなのかな。



そう思いながらそこから外に出て近くのベンチに座り、二人は少し休憩をした。


 やっぱり気になる。


 キスまでしてくれたんだよ?


 告白してもいいよね?


 私は何度も彼に好きと言ってる。


 でも彼はまだ”好き”と言う言葉を私に口に出してない。


ベンチで座っていた彼との距離を近づけ、私は聞く。


 唯愛「圭。好きだよ。離れたくない。私と付き合って」

彼は下を向き黙る。


 圭「...」


 唯愛「駄目なのはわかってる。でも私の気持ち抑えられないの」

不思議な事で、普段の私とは真逆。

素直な気持ちが出せた。


私の初めての告白。

必死だった。後先の事も何も考えず。

只々彼を、私の”物”にしたいと思っていた。


欲の塊。


独占。


本能。


動物。


私の欲は彼との2回目のキスで爆発したのだ。

そして、下を向きしばらく黙っていた彼が口を開く。


 圭「俺も同じだよ。でも今は付き合えない。」



私はフラれた...。



抱きしめられて、指も絡ませてきて、キスまでされて、私の人生初めての告白。

見事にフラれてしまったのだ。


私はいてもたってもいられなくなり、その場から逃げようとする。

それを抑えるように彼も私の手を握り止めようとする。


 唯愛「手を離してよ!こんなことになるならあんな事しないで!」


 圭「ごめん...。でも」


 唯愛「でも何?なんなの?先生の気持ちが私には全くわからない!」


そう言って握った彼の手を跳ねのけ、私はその場を立ち去った。

好きだから、付き合いたいからキスをするんじゃないのか。

私を独占したいから、抱きしめたくなるんじゃないのか。

彼からもそんな気持ちは伝わっていたはず。


なのにどうして。


私は動物園の入り口まで必死で走ってきたが、普段走り慣れていない私は、その場でしゃがみこみ、子供のように涙を流した。


あの檻の中にいるパンダのようにはなれなかった私。


もしこの世界に私たち二人だけしかいなかったら、圭はどんな言葉を私に返してくれたのだろう。

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