第9話 二人ダケノ時間
折り畳まれた紙の中に書いてある圭の誘いを読んでから4日後。
ついに当日を迎えた。
私達は今日までただただ担任の先生と、
生徒という関係をきちんと保ち、お互い意識をしていたが、そこまで近づくことなくここまできた。
感情の読めない誘いの手紙。
"今頃手紙って"
と思ったけれど、やはり彼の字を見ると、どんな気持ちでこの文を書いたのかなとか、色々想像できて楽しい。
「今度の土曜日10時。熊谷動物園に行こう。正面入口で待ってる」
字はとてもバランスよくキレイだが、土曜日の「日」や熊谷の「谷」、それに「園」、「口」。最後の1角が閉じておらず右下全部が空いている。
隙だらけ。
「先生って意外と不器用なのかなぁ」
と今日までの授業中、彼の手紙の字をずっと眺めながらクスッとしてしまっていた。
窓を開けると今日は空がほとんど曇。わずかな隙間から少しだけ陽が差していた。
私に何か希望を与えてくれるのかと思いながら、服を着替え外にでる。
カーキのシャツに黒のミニスカート。せっかくのデートだし、女子高生らしさを出す私。
最近買ったメガネをかけ、逆に大人らしさも出してみた。
熊谷動物園は家の近くの駅から電車に乗り約4駅。そこの駅を降りると目の前に動物園の正面入口がある。
電車に乗りながら私は、何度も自分を鏡で確認し、前髪を何度も触っていた。
そして約束の時間より30分も早く動物園に着く。
辺りをキョロキョロ見渡してもまだ彼は来ていない。
普通はこうゆう時って女子の方が後に来るもんでしょ。と思ったのは私だけだろうか。
彼と学校外で会うのは初めて。
なのに今日はそこまで緊張もしなかった。
すると、後ろから私の頭をポンッと触れるおっきい手の感触。
振り返り見上げると、そこには笑顔でいっぱいの彼がいたのだ。
「ごめんね。待たせたね」
低いけど柔らかい声。
そして甘くて優しい香り。
白の無地のシャツに黒のカーディガンに黒のスラックス。
学校にいる時の雰囲気とは少しだけ違い、いつもより若く見えた。
「いっいえ。私もさっき来ました」
ポンとされた事で一気に緊張してしまう私。
「よし。動物園楽しむかぁ!」
と彼は言い一緒に中に入った。
動物園の中は景気が悪いからか、土曜日の割には人が少なく、家族連れの人たちがポツポツと。
近くに新しい水族館ができたからそっちの方に恐らく人が流れてしまっているのだろう。
でも私は人が少ない方がいい。
せっかくのデートなのに人疲れはしたくなかった。
それに先生とのゆっくりとした会話も楽しめる。
圭「まずさ、キリン見に行かない?」
唯愛「先生キリン好きなんですか?」
圭「だってさぁーあんなに首が長い動物珍しくない?なんでなんだろうと思ってずっと見ときたくなるよ」
唯愛「確かにそおですね」
圭「唯愛ちゃんは動物何が好きなの?」
唯愛「わっわたしはパンダかな」
圭「パンダかわいいよね。キリンの後に見に行こか!」
彼の「好き」という言葉にいちいち反応してしまう私。
そう。
まだ私は彼に「好き」って言われたことがなかった。
それに気づけば呼び方が「唯愛ちゃん」になってる。
疑いの目がなくなったわけではないが先生の優しいリードについ負けてしまい、どうでもよくなる私がいた。
そして、
圭「おっ!キリンだ!すげー!」
キリンを見てはしゃぐ彼。まるで小学生の男の子みたいだった。
彼の方を見るとキラキラとした純粋な目でそれを見ている。
可愛すぎる。
圭は。
すると彼が
「キリンバックに一緒に写真撮ろう」
と言ってきて私を振り返らせ、私の肩に手を乗せ顔を近づける。
...彼の香り。
はじめから風で少し匂いはしていたが、この香りが本当ずるい。
近づくと一気に顔が赤くなり全身が熱くなって溶けそうになる。
私は圭と写真を取り、人生初めてのデートで彼の全部がどんどん欲しくなってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます