第7話 曇リ空ノ昼
「ガタンッ!!」
愛妻弁当を落としてしまいその音に気づく圭とその女性。
彼はすぐに私の所に駆け寄ってきた。
圭「大丈夫?落としてるけど。ねえ?大丈夫?」
彼のその言葉はハッキリと私の耳に入ってきたが、立ち尽くし下を向いて黙っていた。
どうして...?
なんでその人といるの...?
その人は誰...?
彼女...?だよね...。圭のあんな笑顔見たことないもん...
どうして...?なんで今私の名前をよんでくれないの...?
私は頭の中でずっと何度も繰り返し思っていた。
すると奥で立っていた女性の先生が心配そうにしながら私の所へ来る。
そう。その女性の名前は坂上ゆみ。
新学期が始まった時、全校集会の時でも二人とも仲良く話していたのをチラッとだけ見たのを覚えている。恐らく彼と同じ年だろう。
見た目もすらっとしていて出てる所は出てるし、大人の色気?と大人の余裕?みたいなのがオーラとして出ている。
でも要所ではきちんとあざとさを出しているのだ。
普通は女子から見たら憧れの先生。
私もそう思っていた。
ついさっきまでは...。
ゆみ先生「七瀬さんだよね?物落としたけど大丈夫?」
この人にだけは心配されたくなかった。
私は落とした弁当をそのままにして、その場を立ち去った。
圭..。あの日私にキスしたよね?
なんで私にキスしたの...?
あの日の事を思い出すと涙がとまらなくなってきた。
本当何もかもが台無し。
勝手に一人で浮かれて愛妻弁当なんか作っちゃって。
あんなもの作るんじゃなかった。
作らなければあの二人が楽しそうに歩いている姿なんて見ることもなかった。
本当...。浮かれていた自分に後悔をした。
外の空気が吸いたくなり屋上にでる私。
中学生の頃から屋上が好きだった。出入り自由なのに誰もいないし、そこで昼ごはん食べると本当に落ちつく。
「せっかくの昼ごはん。私の分も同じ袋に入れてたから落としてきちゃった...」
そう独り言を言い、空を見上げる。
今にも雨が降りそうな曇り空だったが、私はこの微妙な天気が好きだった。
私とどこか似てる。
そう思っていた。
すると...
ガチャッ。
誰も来るはずのない屋上の扉が開いた。
そしてそこにいたのは、右手に彼にあげるつもりだった愛妻弁当と、私の弁当が入った袋を持ち、迷子になった子犬をやっと見つけたかのように私を見ている圭がそこにいた。
「はぁ...はぁ...」
彼は息を切らしていた。
そしてゆっくりとこっちに来る。
圭「ここにいたんだな」
唯愛「.....」
圭「まさかと思うけど、これ俺に持ってきてくれようとしていた?」
唯愛「...うん」
圭「そおだったのか...」
彼はそお言いながら私の隣にきて座った。
圭「ありがと。一緒に食べるか」
唯愛「...うん」
圭「おっ!トンカツ!俺一番好きな料理だ。いただきまーす!やばっ!むちゃくちゃ美味しいこれっ!」
さっきゆみ先生といたときの笑顔。
私のお弁当を食べてその顔をしてくれた。
本当にずるい。
その圭の笑顔。
一瞬にして落ち込みも吹き飛ぶ。
誰もいない屋上。
ゆっくりと流れる時間の中、圭と私は初めて一緒にお昼ご飯を食べた。
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