第3話 逞シイ背中
唯愛「はぁ。はぁ。」
息を切らしたこの恥ずかしい姿の私を、細い目で見てくる圭。
そしてこっちにゆっくり寄ってくる。
あの香りと共に。
圭「唯愛さん。大丈夫?」
急にビックリした。
えっ?なっ名前で呼んでくれた?!
てかなんで私の名前もう覚えたの?!
しかも...何この優しい話し方。全然授業の時と違うじゃん。
唯愛「はっはい!だっ大丈夫です」
さらに自分の顔が赤くなったと気づく私。
逆に走ったせいで先に火照っててよかった。
恐らく彼にはバレてないだろう。
そしてしばらくその状態で沈黙が続く。
圭「...。」
唯愛「....。....あっあの。今日の先生の授業が中途半端に終わったから...。その先がきっ気になっちゃって...。そしたら何かすごくいい香りがして...」
圭「香り?」
彼が私の方に近づいてきたため、焦ってしまって言わなくてもいい事まで言ってしまった。
2重にまで赤くなった顔が、さらに赤くなる私。
圭「唯愛さんってよくしゃべるんだね」
そお言ってニコッと微笑んできた。
そう...。
その彼の笑顔を見て...。
私は恋に落ちた。
一見冷たそうに見えるその細い目から、くしゃっとなるその笑顔。
好き。
そのくしゃっとした笑顔を見るだけで私の全てをあげたくなる。
本当の笑顔...。
今まで私は大人の本当の笑顔を見てこなかった。
他の先生達もほぼ愛想笑い。
自分の両親の笑顔なんか、当然見たことがない。
それをずっと見ていた私ですらも、だんだんと本当の笑顔が分からなくなっていたのに。
そういえば今日美華にも言われた。
久しぶりに見たって。
本当。
彼の事を見てたら私まで笑顔になっちゃう。
さっきまで彼女だの奥さんだの言いながら嫉妬してたくせに。
この笑顔はズルいよ....。
そんなことを思いながら3重に赤くなった顔を、上げれず下を向き黙っていた。
すると、
圭「おっ俺もその授業の復習しようと思って図書室にきたんだ。よかったら一緒に見る?図書室さっきみたけど誰もいないし」
まさかの誘いにビックリした。しかも少し彼も緊張してる?
まだ担任になって少ししかたってないし、会話なんて一度もしたことないのに。
でもあの彼の笑顔を見たら、嫌だとは言えない。
その笑顔に完全敗北した私は、彼と図書室に入った。
中は本当にだれもおらず、しいていえば唯一、図書室の奥の窓から夕日が差し込み、私たちに対して雰囲気づくりをしてるのかと思うくらいゆっくりと穏やかにカーテンがなびいているだけだった。
圭「今日授業したところが載ってる本はここら辺なんだけどなぁ」
パッと見た目はほっそりしているが、こうして距離をつめて、後ろに付いていきながら先生の背中をよく見てみると、昔にスポーツをしていたのがハッキリとわかるぐらいたくましかった。
野球部? そしたらもっとお尻もおっきいか。
サッカー? だったら太ももおっきいか。
ラグビー? そこまでゴツくはないかな。
唯愛「せっ先生。何かスポーツされてました?」
まだドキドキがとれていない私が聞く。
圭「うん。水泳やってたよ。小学から大学までずっと」
たしかにと思った。背中のラインがスーツを着てても綺麗ってわかるぐらいだ。
てことは...。脱いだら凄いだろうな...。そんな身体で抱きしめられたら...。
しばし、彼の後ろで妄想に浸っていた私。
正直、本の復習の事なんてどうでもよくなっていた。
圭「あっこれだ!」
彼は探していた本を見つけ嬉しそうに言う。
やっぱりその笑顔はズルい...。
そして本を見つけた私たちは、夕日が見える窓際の机に二人並んで座り、私たち二人だけの時間外授業が始まった。
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