第2話 影ノ嫉妬

 「昔はお金というものがなかった。その変わりに、貝殻などを使用し...」

ブツブツと聞こえるか聞こえないかの声で、淡々と授業を進めていく圭。

彼は社会の先生である。


 授業内容を聞いてると、先生自身が好きなジャンルの所は次の授業まで持ち越されるぐらい永遠に話していたが、嫌いなジャンルはここは面白くないからサラッと終わります。とハッキリという、そんな先生だった。


恐らく20代後半。見た目クールで大人しそうな感じなのに、こうやって急に自分の世界に入り語りだすと、幼い子供のように見えたのは私だけだろうか。


 その中でも今日は先生にとって少しだけ面白い所だったみたいで、授業終了時刻10分後に終わる。

時計を見つめほんの少しだけ誰にも気づかれない程度に焦った表情を見せた先生はなんとも言えない中途半端な所で話を止め、教室をでようとしていた。


私にはわかった。

ずっと大人は見てきたから。


すると、それを追いかけるようにクラスの女子生徒10人ぐらいが先生のところにかけよる。


 「先生って彼女いるんですかー?」


 「先生って趣味とかあるんですかー?」

圭は戸惑っていた。


それを教室の1番後ろから見つめる私。


 「先生、すごく戸惑ってる。かわいっ!」

授業中のあの健気に話している授業の姿とはまるで違う先生を見て、私はクスッと笑ってしまった。


 美華「唯愛〜」

隣にいる美華が私の表情に気づきニヤッとしてこっちを見る。


 美華「唯愛が教室で笑顔になってるのすごく久しぶりにみた〜」

私は恥ずかしかくなり顔が一気に赤くなった。


 美華「先生、大人しいけどイケメンだもんねっ」

と言いながら頭を優しく撫でてくれる。


 唯愛「...」

私の中の感情が美華にはバレてるのかと思い声がでなくなる。


 美華「でも、あれだけイケメンだったら彼女とか奥さんいそうだよねー」


 唯愛「そおだね...」


私は一気に赤面した顔が元に戻った。

どうせ学校ではクールにして、授業こなして、家に帰ったら彼女だか奥さんだか。それに甘えてるんでしょ。


よしよししてもらって、二人で抱きあって、その後なんかは...。


まだ目も合った事もないし、一度も話した事のない先生に対し私は何故か嫉妬をしていた。



 そしてその日の授業も全て終わり、美華がバイトということもあり、時間がある私は図書室に行くことにした。


普段あまり図書室に行かない私。


今日、先生の授業があまりにも中途半端に終わってずっと気になっていたのだ。


内容が気になるのと先生の事が頭から離れなくなっていて、ずっと授業中モヤモヤしていた私。

息を切らす程、猛進しながら駆け足で行き、廊下の角を曲がる。


 すると、その角の向こうからフワッと吸い込まれそうな甘く癒やされる香りがしてきた。


 なに。この香り。

私の全てを捧げたくなるこの香り。だけどどこか悲しそうで少し切ない。


 「あっ。」

角を曲がった先には、図書室に入ろうとしている彼が、息を切らし顔が火照ってしまっている私を見ていたのだ。


目が細く、一見冷たそうな目に見えるが、その時の私には優しい眼差しにしか見えなかった。

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