第408話 それ、モンスターな気がします

 「じゃあ、報告は任せたぞ。」

 「頼んだぞ、蓮沼。」

 「普段はトロいんだから、これくらい役に立てよ。」

  

 口々に言う漁師達。


 奇妙な魚の報告を任されたのは、蓮沼大輝(はすぬまたいき)、19歳だ。


 地元の水産高校を『最低の成績』で辛うじて卒業し、内定取り下げで欠員が出た沖合底引き網漁船にギリギリで滑り込んだ、気の毒な表現だが『お荷物社員』。


 ボソボソ喋り、動きはトロく、積極性に欠ける。


 そのうち海に落ちるか、魚だらけの網に落ちるか、水槽に落ちるか?


 労災必至の危険人物。


 「まあ、手続きやいろいろあるだろうから、1週間は船に来なくていい。」


 船長が言った。


 「ちゃんと給料は出してやる。その代わりしっかり務めろ。」


 「蓮沼がいないほうが捗るわ。」

 「そうだそうだ。」

 「サボるなよ‼」


 船員仲間には好き勝手言われてしまったが、温情措置なのはわかっていた。


 大輝は出かけていく船に頭を下げる。


     ☆     ☆     ☆


 蓮沼大樹は、代々漁師をしている家の子供だ。


 曾祖父も、祖父も、父親も漁師。

 姉と妹に挟まれた長男。


 押しの強い海の男と、元気いっぱいな女兄弟に囲まれて……


 おとなしく育ったのは、決して生まれ持った気質のせいだけではない気がするよ。


 水産高校に進んだのも、なんとなくだ。


 当たり前だったから、それだけだが、今にして思えば1つも向いていなかった。


 手先は不器用、体力はない、運動神経皆無。

 そしてそこまで、魚に興味も愛着もなかった。


 小学生の頃、世界に現れたダンジョン。

 幼い憧れで探索者には興味があった。

 いつかダンジョンに入りたいとは思っていたが、100メートル走が21秒の男としては……


 諦めていた。

 レベルを得れば強くなるらしいが、その前に死んでしまう。

 反面、憧れたからダンジョンモンスターには詳しい。

 今はネットで画像も探せる。


 そんな大輝の見立てとしては……


 「これ、たぶんモンスターだよな。」


 青年のスマホには、網にかかって煙のように消えてしまった時からの、奇妙な魚が記録されている。

 

 今となっては大手柄だが、当時はめちゃくちゃ怒られた。

 何度目かでぶん殴られたが……

 そのままの勢いで水揚げを保管する水槽に落ちて……

 助けるのに往生してから、誰も手は出さなくなった。


 事故死ならともかく、殺人にされたらたまらない。

 もっともだ。


 大輝が見るに、角があったり、ヒレが異常に大きかったり、『奇形』で流せない魚達はモンスターだ。

 事実、最初の方は煙のように消えた。


 水揚げされ、陸に放り出された水棲モンスターが死ぬことにより消えた。


 理屈は合うのだ。


 残るはずの魔石も、何せ『魔石燃料船』だから、どこかに転がっていてもさほど不自然には感じない。


 しかし、何故ダンジョンにいるはずのモンスターが海にいるのか、しかもこの頃では消え失せることなく実体を持っている。


 わからないことだらけの事象の、報告先として選んだのは自衛隊外局だ。


 農林水産省じゃない、学者でもない選択が、最高の好プレーとなった。

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