第8話 少年は迷宮を暴走する

 ここがもし、ダンジョンならば……


 異形達は部屋部分から出られない、そういう設定にも期待したが、オークは普通に追ってきた。


 自転車で逃げる青達を追って、通路を走る。

 ミャアミャアと、かわいい声を出しながら。


 「なんでこうなるんだよ‼」と叫ぶ青だが、ペダルを漕ぐ足は止めない。


 幸いにも、オークの足は速くないようだ。


 青自身も、ひまわりと子ぎつねと、2人分のカバンと、と、ハンデを背負っての激走(+ママチャリ)だが、それでも徐々に引き離す。


 ただ1番の問題は、休む場所、隠れる場所が見当たらないことだった。


 ダンジョン内にある部屋のような場所に、モンスターはいるらしい。


 けれど、そこから出ても来れると、気付いてしまった。


 通路も安全じゃない。

 物陰が欲しい。


 「キャーッ‼️」

 瞬間、耳をつんざくような女の悲鳴。


 「にぃ‼にぃ‼」

 「……なに?」

 「あれ、なに?変な緑色の子供‼」


 ひまわりが体を捻り、後ろから来る異形を指さす。


 ……

 ゴブリンよ、お前もか。


 キャーッ‼キャーッ‼と喧しいのは、小学1年生のひまわりと変わらない身長、腰みのにこん棒片手の、緑の小鬼、ゴブリンだ。


 こん棒で武装していて、敵と見るや追いかけてきたくらいには好戦的。

 

 イメージ通りだが、声がやばい。


 女性の叫び声だ。しかも結構危機的状況?な声だ。


 ダンジョンは数日前に、この世界に現れたばかり。


 それでもいつか『冒険者』なんて職業が生まれたら、何人かは絶対『歪む』だろう。


 あんな声のゴブリンを倒すなど、心が折れなきゃ、スーパーサドだ。


 まあ……

 近付いてはいけない人間の試金石には、なるな。

 喜んで倒すヤツ、特に。


 「ねえ‼にぃ‼」

 「あれは、緑のお化けだ‼」


 正確に教えても仕方がないし、妹には適当に答えた。

 

 ゴブリンも速くない。

 オーロラ号はガチャガチャ音を立てながら、追ってきたゴブリンの群れ(なんと4匹もいた)を突き放す。


 モーッ‼

 

 って、牛かぁ‼


 「にぃ‼あれは‼」

 「大き過ぎた呪われたウサギだ‼」


 いわゆる一角ウサギだった。

 真っ白で、額の真ん中に角が1本、目は真っ赤。

 大型犬くらいのサイズで、牛のように『モーッ』と鳴く。


 「にぃ‼あれは‼」

 「あれはスライム‼」


 スライムは鳴かない。良かった。唯一イメージ通り。


 幸いにも足の速いモンスターには出会わなかったが、ゲーム的な序盤の敵には、確かウルフとかもいる。


 ウルフだとスピード面でもかなわなそうだし、どこか安全な場所は?


 身を隠せる場所を必死で探していた青は、だからそれの発見が遅れた。


 「あっ‼」

 「にぃ‼」

 「キャーッ‼」


 耳をつんざく悲鳴とともに、新たに前方に現れたゴブリンが1体、全力でオーロラ号に跳ね飛ばされた。


 自転車事故、ある、ある。

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