第10章391話:シュルード視点

<シュルード視点>


シュルードはレストラン【グレインバル】をあとにした。


肩をいからせながら路地裏を歩く。


彼は憤慨ふんがいしていた。


理由はもちろん、エリーヌに結婚を拒否されたからだ。


「あの女……」


シュルードは、エリーヌに結婚を断られるとは思っていなかった。


戦争の勝利者であったとしても、ブランジェ家はしょせん子爵という身分だ。


それにエリーヌ自身も、貴族界での立場がまだまだ低い。


だから自分が結婚を申し出れば、エリーヌが素直に頼ってくると思ったのだ。


シュルードにとっては波に乗っているブランジェ家の勢いにあやかれる―――――


ブランジェ家にとってはバルター伯爵家とつながりが持てる――――


双方にとって利があるはずなのに、きっぱりと結婚を断られた。


(旅が楽しいから、結婚を拒否するだと? 気が変わることはないだと?)


シュルードにとっては、エリーヌの思考回路が理解できなかった。


貴族社会でのしあがることよりも、旅をすることのほうが優先順位が高いなど……


そして何より。


(この俺が、せっかく結婚したいと申し出てやったのに、断りやがって……ッ!!)


シュルードとエリーヌの婚約は、あくまで政略結婚である。


だが愛はなくとも、シュルードにとっては一応、女性へのプロポーズ。


それを拒絶したエリーヌに対し、シュルードは多少なりともプライドを傷つけられていた。


「くそッ!!!」


シュルードは、怒りで頭に血がのぼっていた。


彼は怒りに任せて、近くを通りかかった男性をいきなり蹴りつけた。


八つ当たりである。


「ぐあっ!!? 痛いな!? あんた、いきなり何をするんだ!!」


当然ながら、いきなり蹴られた男性は憤慨する。


それに対してシュルードは、ドスを効かせた声で答えた。


「あ? 誰に口を利いている? 俺は貴族だぞ?」


「えっ……貴族、様?」


路地裏は暗くてよく見えにくい。


しかし男性が目を凝らして確認してみれば、たしかにシュルードが貴族の格好をしているとわかった。


男性は青ざめる。


シュルードは告げた。


「貴族である俺が、庶民である貴様を、気まぐれに蹴り飛ばしただけだ。何か問題があるか?」


「いや、えっと、その」


「何か問題があるのかと聞いているんだ。答えろ!」


「ももも、問題ありません!!」


「そうか。問題ないならさっさとせろ。蹴られるだけでは済まなくなるぞ」


「ひっ、ひぃいいっ!!」


男性はおびえながら走り去っていった。



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