第10章383話:前世と魂

「前世の記憶……?」


とローラは首をかしげた。


私はうなずいた。


「はい。私はブランジェ家から追放されたあの日、前世の記憶を思い出しました。姉上が私に感じた違和感は全て、そこに起因するものと思います」


私はかつて、アリスティに語ったことを、ローラにも伝えることにした。


地球のこと。


日本のこと。


魔法がなく、科学文明が発達した時代のこと。


とても豊かであり、便利なもので溢れていたこと。


「――――といったような、優れた文明社会に生きていました。そんな記憶を思い出したんです」


「えっと、それってつまり、転生したってこと?」


「そうなるかと思います。前世の私はトラックに――――ああ、このキャンピングカーのような乗り物のことですが――――き殺されて、死んでしまいました。そこが前世の記憶の最期さいごです」


「なるほど……」


とローラは納得の言葉を述べつつ、尋ねてきた。


「このキャンピングカーは、前世に存在した乗り物ということ?」


「はい、その通りです」


「つまり、あなたは前世の文明を、この世界でも再現できるということ?」


「はい。錬金魔法と科学を組み合わせれば、この世界でも前世の技術を再現することが可能です。むしろ魔法があるぶん、前世より高性能なものを作れますね」


たとえばアンチマテリアルライフルは、魔弾まだんを装填すれば、前世のものより高威力こういりょくになる。


キャンピングカーだって、魔力でコーティングした車体しゃたいなので、耐久力が極めて高くなっている。


科学だけでも優秀だが、魔法を組み合わせれば、さらに強力な技術開発がおこなえることは証明済みだ。


「すごいわね」


とローラが感心した。


「ありがとうございます」


と私は応じつつ、告げた。


「少し話を戻しますが――――さきほどの問いについて考えたいと思います。『私がエリーヌであるか?』という問いですが、難しいところですね」


「難しいの?」


「はい。なにしろ私の脳は、半分は前世の記憶で出来ています。それを別人の記憶だと定義したならば、私はエリーヌとはいえません。エリーヌの人格も、前世の人格と混ざっていますからね。魂だけは同一のようですが」


転生したということは、別の言い方をすれば、古木佐織の魂がエリーヌとして再スタートしたということだ。


記憶や人格は別物だが、魂だけは同じである。


逆にいえば、魂だけは同じだが、それ以外は別物であるともいえる。


「でも、前世の記憶を"思い出した"というだけなのよね?」


「まあ、そうですね」


「だったらエリーヌといえるんじゃない?」


とローラは言ってきた。


ローラは説明する。


「あなたの言うことを考えると、この世には輪廻転生りんねてんせいが存在するってことよね。つまり私にだって前世があるってこと。その前世の記憶は、私がまだ思い出せないってだけで、魂がおぼえていてくれてるはずよ。でも仮に、たったいま、その記憶を思い出したとしたら、私がいきなりローラじゃなくなってしまうのかしら?」


「んー、確かに姉上じゃないとまでは言えませんね」


と私は答える。


姉上が前世の記憶を思い出したというだけで、私が姉上を姉上だと認識できなくなるなんてことは、たぶん無いからだ。

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