第10章382話:ローラの問い

ローラはじっとアリスティを見つめる。


アリスティは悩んだ末に、答えた。


「その件については……私からお答えすることはできかねます。お嬢様に直接、うかがっていただけませんか」


「そう。ちなみにエリーヌの抱える秘密は、私が知ってもいいことかしら?」


「その判断も含めて、お嬢様のご意思に順じたいと思います。私が軽々けいけいに打ち明けていいような話ではございませんので」


どうやら、かなり重いことのようだ。


ローラは少し緊張した。


しかし、同時にワクワクもした。


あの妹が、いったいどんな秘密を抱えているのか気になったからだ。


現在のエリーヌは、ちょっとしたビックリ箱のようなものだ。


もし秘密を打ち明けてくれるとしたら、きっと想像もつかないものであるに違いない。





<エリーヌ視点>


シャワーを浴びて汗を流したあと、私はお風呂を出た。


「ふう……」


朝の運動のあとのシャワーは最高だ。


エンドルフィンが分泌ぶんぴつされて、意識が目覚める。


さっぱりとした爽快そうかいな気分に包まれる。


服を着たあと、キャンピングカーのリビングに戻った。


テーブルに座ってホットミルクを飲む。


するとローラが声をかけてきた。


「エリーヌ。ちょっと話したいことがあるんだけれど」


「はいはい?」


私はローラの言葉に耳を傾けながら、ホットミルクをあおった。


美味しい。


ローラが言った。


「あなたは……いったい誰なの?」


私はホットミルクを手で持ちながら、一瞬、硬直した。


そっとホットミルクをテーブルに置く。


「誰、とは?」


「……回りくどい言い方は嫌いだから、正直に言うけれど、私は今のあなたが、かつてのエリーヌとは違うと思っているわ」


「まあ、旅先でいろいろあって、私も成長しましたからね」


「そういうことじゃなくてね」


ローラが私の対面に座った。


そして、じっと私を見つめて尋ねてきた。


「あなたは、本当に私の知るエリーヌなのかって聞いてるの」


「……」


私はローラの問いについて考える。


ローラは頭が良い。


ある程度のことは頭の中で補完し、理解できてしまう。


しかし、今の私の存在は、どうにもローラの理解の範疇はんちゅうを超えているのだろう。


錬金魔法を使っていろいろ暴れすぎた面も、異様に見えただろうし……それに。


(……私に古木佐織ふるきさおりの人格が混ざっていることを、直感的に感じ取ったんだろうね)


私は転生者だ。


厳密な意味でエリーヌではない。


エリーヌの意識と、古木佐織の意識が混ざり合い、融合している。


ローラからすれば、違和感を覚えるのは当然だ。


打ち明けるしかないか。


「わかりました。質問にお答えしましょう――――実は私には、前世の記憶があるんです」

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