第10章381話:格闘とローラの視点

ローラはうっとりしながら言った。


「この甘くてミルキーな感じがたまらないわ! あ、でも確かに、これはコーヒーの苦味と合いそうね」


私はうなずく。


「はい。チョコレートばかりだと口が甘ったるくなりますが、コーヒーを挟むことでお口直しができるんですよ」


「ん~、確かに」


とローラはコーヒーを飲みながら同意した。


無糖のコーヒーなので、苦さは強いが、チョコレートのお口直しにはピッタリである。


私もチョコレートを一つ、口に放り込んだ。


そしてコーヒーを飲む。


ん~。美味しいっ!


やはりコーヒーとチョコの組み合わせは最高だね。





街道を走る。


やがて日が暮れて、夜になった。


キャンピングカーで車中泊をおこなう。


ローラは、お風呂の快適さを絶賛したり、天井からずり下がってくるプルダウンベッドに驚愕したりした。


翌日。


朝。


晴れ。


軽く食事をったあと、私とアリスティはキャンピングカーの外に出る。


アリスティと格闘術の稽古をおこなうことにした。


こうした格闘の練習や、組手くみては、それなりの頻度でおこなっている。


私はいつものローブではなく、動きやすいラフな格好で。


アリスティはメイド服のままである。


「ふう……」


私は集中力を高めた。


アリスティと対峙たいじする。


基本ルールは、アリスティには大幅に手加減してもらった状態で戦う。


本気のアリスティに攻撃されたら即死もありえるからだ。


しかし、もちろん、こちらは本気だ。


「いきますよ」


「はい」


とアリスティは応じた。


私は地を蹴る。


まずは前蹴まえげり。


これはアリスティに避けられる。


次に、アリスティの顔面に向けてのジャブ。


続けて私はローキックを放つ。


「!!」


アリスティにローキックが決まった。


思ったよりあっさりと決まった攻撃だ。


ジャブで相手の視界を覆ってから、下段であるローキックを放つというのは、キックボクシングの最も基本的なコンビネーションである。


もちろんアリスティにダメージはないが……


(やはり、前世の格闘術は、異世界では通用するね)


いろいろな技を出してみる。


キックボクシングの後ろ回し蹴り。


柔道の一本いっぽん背負ぜおい。


合気道あいきどう四方投しほうなげ。


だいたいどの技も、アリスティには決まった。


ちなみに、アリスティの腕をねじりあげて押さえにかかったが……


「ッ!!?」


関節が決まっていても、"圧"だけで吹っ飛ばされてしまった。


しっかり相手の関節を固めても、アリスティと私では力量差がありすぎて、押さえ込めないのだ。


ネコがライオンに関節技を決めても、力づくで振り払われるのと同じである。


「面白い技ですね。それも地球の技術ですか?」


とアリスティが感心したように尋ねてきた。


「はい。柔道とか、合気道とか、記憶している範囲の武術を、試してみようかと思いまして」


「なるほど」


「関節を痛めたりしてませんか?」


「大丈夫です」


とアリスティは答えた。


かくして30分ほど、組み手を続けた。





<ローラ視点>

アリスティとエリーヌの格闘訓練が終了する。


ローラは、キャンピングカーの近くで、訓練を眺めていた。


エリーヌが歩いてきて、すれ違いざまに言った。


「汗をかいたので、少しシャワーを浴びてきます」


シャワーというのは、キャンピングカーの浴室に設置された洗浄用具せんじょうようぐのことだと、ローラは理解している。


エリーヌはキャンピングカーの中に入っていった。


それを見送ったローラは、アリスティに話しかける。


「お疲れ様、アリスティ。見ていてすごく参考になる戦闘だったわ」


「ありがとうございます」


とアリスティが応じた。


ローラは告げる。


「一つ聞いてもいいかしら?」


「なんでしょうか?」


「エリーヌは……いったい誰?」


ローラの問いかけに、アリスティがビクッとする。


ローラは鋭いまなざしを向けながら、言った。


「妹の才能が開花し、活躍していることは喜ばしいことだけど……それが本当に、自分の妹だったらの話よ。あのエリーヌ・ブランジェは、私の知るエリーヌじゃない。私の妹じゃない」


「……」


「答えて? あのは……誰?」


実は、ローラからすると、エリーヌの皮をかぶった他人が、エリーヌの名前を使って行動しているように見えていた。


妹であるはずなのに、妹ではない感覚――――


それがローラの抱いていた強烈な違和感である。


ローラの問いに、アリスティはどう答えたものか悩み、しばし口をつぐんだ。


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