第10章372話:謝罪

葵さんが刀を鞘へと戻す。


「すまない。自国の文化に興味を持たれると、つい嬉しくなってしまった。――――本題に戻ってくれ」


と葵さんも謝罪した。


王女スフィーアは居住まいを正してから、こほんと一つ咳払せきばらいをし、告げる。


「本日、こちらのお屋敷に参りました理由は、まず領軍戦争のご勝利に関して、祝辞を述べたかったからですわ」


と前置きしてから、王女スフィーアが告げる。


「ご戦勝、おめでとうございます。わたくしは、あなたがたブランジェ家のご勝利を、祝福いたしますわ」


ただの人間が「おめでとう」と口にするのではなく。


王女殿下という立場からの直々の祝辞。


政治的には、とても意味があることだ。


「また、」


と王女殿下は続けた。


「エリーヌ嬢に謝罪を申し上げたいと思い、参りました次第です」


「私に、ですか?」


と私は首をかしげる。


王女スフィーアは答えた。


我々われわれ王家は、1年前、あなたに対し、ありもしない罪によって国外追放を命じてしまいましたもの」


「ああ……」


なるほど。


国外追放の件か。


私は告げる。


「それは仕方のないことだと思います。悪いのは、でっちあげをした母上ですから」


「確かに、ディリス・フォン・ブランジェが汚職を働いておきながら、あなたに罪をかぶせたことは極めて悪質であり、それゆえ、斬首刑という形で処断する運びといたしましたが……あなたに対して、国が詫びなくてもよいということにはなりませんわ」


そう言ってから王女殿下はソファーを立ち上がる。


「したがって、王女の名をって謝罪させていただきます。本当に申し訳ありませんでした」


と、王女スフィーアは私に深々しんしんと頭を下げた。


「……」


ああ……本当に冤罪は晴れたんだなと、私は思った。


感慨深い想いが胸を満たす。


王女スフィーアが頭を上げた。


彼女はソファーへと座りなおして、告げる。


後日ごじつ、お詫びの品を贈呈ぞうていさせていただきたく思いますわ。何か欲しいものがあるなら、遠慮なくおっしゃっていただいてよろしくてよ。わたくしは王女ですから、たいていの物はご用意できますわ」


わお……


さすが王女殿下だ。


欲しいもの、か。


先日も似たような話を姉上とおこなった。


あのときはアーティファクトの素材をリクエストしたが……


今回は王女殿下が用意してくれる品物ということだから、もっと選択肢は広いはずだ。


何をリクエストするか吟味ぎんみしたいところだね。

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