第10章371話:刀

でも私は、梅ノ国の政治のことよりも、文化や風土のほうに興味がある。


「梅ノ国のことについては、とても興味があります。たとえば、どんな武器を使っているのでしょうか?」


と私は身を乗り出した。


葵さんが答える。


「ふふ。武器に興味を持つとは、さすが軍門の娘じゃな。――――こういうのを使っておる」


「わぁ……!」


葵さんがアイテムバッグから取り出したのは、まさしく刀だった。


武士が腰にたずさえる、さやである。


「日本刀だぁ!」


と私は興奮気味こうふんぎみに言った。


葵さんが首をかしげる。


「ニホントウ?」


「あ、いや、なんでもないです」


日本という国の名前が知られてないのだから、日本刀という名称も一般的ではない。


葵さんが説明した。


「これは刀といってな。魔鉄まてつと魔石、それから玉鋼たまはがねを使って鍛造たんぞうする片刃かたはつるぎであり、近接戦闘きんせつせんとうにおいて武士が用いる一般的な武器じゃな」


魔鉄と魔石を使用するということは、やはり魔力が付与されているのか。


魔法の刀……ということだね。


私は言った。


つかえなければ、鞘から抜いたところも見てみたいです」


「よかろう」


と葵さんが微笑んで、刀を鞘から抜いてみせた。


研ぎ澄まされた刀身があらわになる。


波紋が走っていた。


本当に日本の刀とそっくりだ。


感動する。


「すごく綺麗な刃ですね。波紋はもん波打なみうって……切れ味もすごそうです」


「ああ、これは名だたる刀工とうこうの作でな。切れ味も、魔力も非常に優れている」


「へえ……刀に名前はあったりしますか?」


「【獅子丸ししまる】じゃ」


「獅子丸……素敵な名前ですね!」


「そうじゃろう。そうじゃろう」



どうやら自分の刀について語るのが好きなようだ。


刀マニアなのかもしれない。


……と。


そのとき。


「二人で楽しそうですわね」


と王女スフィーアが横から言ってきた。


あ……


つい和風文化のことが気になって、葵さんと話しこんでしまった


王女スフィーアは告げた。


「どうやらエリーヌさんは、さきほどから、王女であるわたくしよりも、梅ノ国にご興味がある様子ですわね」


「こ、これは失礼しました! 気分を害されたのでしたら、申し訳ありません!」


あろうことか王女を差し置いて、梅ノ国の話ばかりで盛り上がってしまった。


無礼と捉えられても仕方のない行為だ。


姉上も私のことをにらんでいる。


しかし王女スフィーアはくすくすと笑って告げる。


「ふふ……いいえ。構いませんわ。見慣れた帝国人より、彼女たちのほうが気になるのは当然のことでしょう」


どうやら許してくれたようだ。


私は王女スフィーアの寛大さに感謝する。

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