第10章370話:棟梁

なおアリスティは、ソファーに座る私の後ろに控えた。


第二王女スフィーアが言った。


「まずはお互いの自己紹介をしておきましょう。わたくしのことは知っているでしょうから、簡潔に―――帝国ていこく第二だいに王女おうじょのスフィーアよ」


本当に簡潔に、スフィーア様が自己紹介をした。


続いて私が告げる。


「私はブランジェ家・次女。エリーヌ・ブランジェです。後ろに控えるのがアリスティ・フレアローズ。よろしくお願いします」


座りながら、丁寧に一礼いちれいをする。


サムライの女性が告げた。


「わらわは千堂せんどうあおいじゃ。こちらは従者の依花よりか。彼女に苗字みょうじはなく、ただの依花である」


おお……


葵さんに依花さん。


日本人っぽい名前だ。


戦国時代に出てきそうである。


「出身はうめくにじゃ」


と葵さんが告げた。


梅ノ国。


和ノ国……的な感じだろう。


「わらわはそこで、【武士家ぶしけ棟梁とうりょう】を務めておる。武士家の棟梁という言葉は、聞いたことがあるじゃろうか?」


「いえ」


と私は否定した。


だいたいの意味は察しているけれども、彼女の口から説明を聞きたいので、知らないフリをしておいた。


するとスフィーア様が、葵さんの代わりに説明する。


「まず武士とは――――梅ノ国に存在する騎士のことですわ」


さらにスフィーア様が続ける。


「そして棟梁とは、まとめ役のこと。つまり【武士家ぶしけ棟梁とうりょう】とは、武士たちの支配者――――いわば国王や領主のことですの」


ふむ……


だいたい私の想像通りだ。


日本の歴史では『武家の棟梁』と呼ばれる存在である。


簡単にいえば武門ぶもんおさ


最も有名な『武家の棟梁』としては、源氏げんじ平氏へいしの名が挙げられるだろう。


そして葵さんは、そういう地位にいる人間ということである。


葵さんが告げる。


「梅ノ国は、ただ一人ひとりの王を立てるのではなく、武士家の棟梁たちによる会談によって、さまざまな意思決定いしけっていをおこなう。武士家の棟梁は国の各地に存在する。全く連絡を取っていない棟梁も、数多くいるのう」


「王がおらず、完全な地方分権ちほうぶんけんということですか?」


「その通りじゃ」


領主がたくさんいて、王はおらず。


つまり戦国時代のように、織田信長おだのぶなが尾張国おわりのくにを治め、武田信玄たけだしんげん甲斐国かいのくにを治めるといったように、地方領主ちほうりょうしゅがそれぞれの土地を統治しているような感じなのだろう。


葵さんが言った。


「かつて天下統一てんかとういつを目指し、幕府という名の統一政権とういつせいけん樹立じゅりつしようとした者がおったが……暗殺によって死んでしまってな。それきり、国を統一しようという者はおらん」


へえ……


他国の情勢を聞くのは面白いな……と私は思う。


ところどころ日本の歴史と対応する用語が出てくるのも、面白い。

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