第10章368話:来訪者

しかし2日後。


朝。


私は屋敷の自室にいた。


明日には帝都へ出発する。


既に準備は済ませてあるので、今日は暇だ。


やることがないので、錬金魔法で何か作ろうかと思った。


……そのときだった。


部屋の外から、使用人たちの驚いたような声が挙がる。


「なんだろう?」


と思って、私は部屋の扉を開けた。


廊下を走り抜けていく執事の姿。


廊下の向こうでも、なにやらあしで移動するメイドたち。


屋敷が慌ただしい様子になっている。


「何かあったんですか?」


と私は近くを通りかかった執事に尋ねた。


「これはエリーヌお嬢様。……実は、王女殿下がお見えになっておりまして」


「……王女殿下が?」


「はい。第二王女・スフィーア様です」


私は納得する。


なるほどね。


屋敷が騒然そうぜんとするわけだ。


(第二王女か……たしか帝国一の政治家、とか呼ばれていたかな)


私はランヴェル王家の基礎的きそてき知識ちしきを、記憶の底から引っ張り出す。


第二王女スフィーア・ド・クララ・フォン・ランヴェル。


政治の才能に非常に長けているとされる。


あのフレッドでさえ『政界において、第二王女はあなどれない』と警戒していたほどだ。


私は軍人貴族ぐんじんきぞくの末女だったため、第二王女なんて、声をかけることも許されない相手だったが。


……王女といえば、私はシャーロット殿下を思い出す。


婚約破棄をするために永世巫女えいせいみこの地位を得ようとしていたシャーロット姫。


帝国の第二王女スフィーアは、それとは対照的だ。


たくみな政治能力で、既に婚約を解消しており、自由を手にしている。


(まあ、姉上が応対おうたいするかな?)


突如としての王女の来訪らいほう


おそらく、領軍戦争の事後処理じごしょりのために来たのだろう。


だとしたら、戦争に参加した私も会合かいごうせきに呼ばれるかもしれないが……


ひとまず姉上が王女の対応をするはずだ。


しばらく私は、自室で待機していよう。






10分後。


自室にて、私はアリスティと二人で待機する。


トントン、と自室の扉がノックされる。


やってきたのはメイドだ。


「エリーヌ様。ローラ様と王女殿下がお呼びでございます」


……来たか。


「わかりました。すぐに参ります」


と答える。


私とアリスティは立ち上がり、そのメイドの案内で、姉上たちのいる応接室へと移動する。


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