第10章362話:人魚との再会

その日、私は屋敷の中でダラダラと過ごした。


翌日。


朝。


晴れ。


朝食を終えた私は、キャンピングカーに乗って、とある場所へと向かっていた。


湖である。


友人の人魚―――ユリシェがいる湖だ。


キャンピングカーから大地へと降り立つ。


周囲を雑木林ぞうきばやしに囲まれた湖。


自然の清新せいしんな空気を、私は呼吸によって吸い込む。


「ここも久しぶりですね……」


と、私はしみじみとつぶやく。


湖のそばまで近づいた。


吹きすさぶ風にゆらぐ湖面こめん


私は叫ぶ。


「ユリシェー!!」


湖に声が行き渡る。


ややあって。


湖面に波紋はもんが広がった。


浮上してくる人型の魚。


人魚……ユリシェである。


「……エリーヌ?」


水上に半身をあらわにしたユリシェ。


抑揚よくようのない、感情の動きがわかりにくい表情ではあるものの……


私がやってきたことに、驚きの色が浮かんでいる。


「お久しぶりですね。ユリシェ」


「うん。久しぶり。……帰ってきた?」


「はい。いろいろあって、この国に帰国することが叶いました」


「そう。よかった」


ユリシェがわずかに口角をあげて、微笑みを浮かべてくれた。


私の帰国を喜んでくれているらしい。


「そうだ。再会を祝してですが、ユリシェに差し入れを持ってきました」


私はアイテムバッグから、用意していたものを取り出す。


それは手作りのチーズケーキだ。


ここに来る前に、あらかじめ作っておいたものである。


「チーズケーキといいます。クセが強い食べ物ですので、まずはひとくち味見してみてください」


「うん」


とユリシェは首肯しゅこうして、水から這い上がってきた。


魚の形をした下半身を這わせるように、地面を進んで、私のもとに近づいてくる。


私は皿に乗せたチーズケーキを、フォークで切り分ける。


ユリシェが素手でつかんで、食べ始めた。


「もぐもぐ……ん、美味しいっ」


「ほんとですか」


「ん。これは、とても好きな味」


「作りすぎたので、全部あげます」


と私が提案する。


ユリシェが告げる。


「ありがと。そこに置いておいて」


ユリシェが示唆したのは、そばにあった岩の上である。


「ここですか?」


「うん。水に濡らしたくないから」


「わかりました」


と私は答えて、岩のうえにチーズケーキの皿を置いた。


するとユリシェが告げる。


「お礼、する」


そうして彼女は、くるりと身を翻して、水の中へと戻っていった。


ややあってから、ユリシェがふたたび戻ってくる。


その手には、水色に光る宝石があった。


「これは、人魚石にんぎょいし


「人魚石……」


「人魚の住む湖には、稀に発生することがあるらしい」


とユリシェが説明する。


とりあえず宝石を受け取る。


しかし、何に使うものなんだろう?


錬金の素材にでもなるのだろうか?



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