第10章361話:報酬

そのあと。


そろそろ朝食が終わりそうになってきたころに、姉上が切り出してきた。


「そういえば、戦の報酬についてだけど、」


と前置きしてから姉上が告げる。


「エリーヌ……あなたは今回のいくさで、たぐいまれなる戦果せんかを挙げたわ。よって私は、あなたに十分な報酬を授けようと思う」


私はサラダを口にしながら、姉上の言葉を聞く。


姉上が言った。


「何か欲しいものはあるかしら? あなたの望むものはなんでも用意するつもりよ。もちろん、私が用意できる範囲のものでお願いしたいけれど」


どうやら報酬については、私がリクエストしてもいいようだ。


もちろん無茶な報酬を要求するつもりはない。


とはいえ、特に欲しいものがあるかといわれると……うーん、という感じだ。


無難にお金と素材でも貰っておこうか?


(あ、そうだ……)


と私は欲しい報酬を思いついた。


しかし、それを要求するにはまず、確認しておきたいことがある。


「姉上、一つ確認なのですが」


「何かしら?」


「今回の戦では、ブロストン侯爵の財産は全て、ブランジェ家が得ることになるんですよね?」


「そうね」


と姉上は肯定する。


領軍戦争りょうぐんせんそうの勝者は、敗者のものを根こそぎ獲得することができる。


つまり、今回の場合なら、ブロストン侯爵の財産の権利は、全てブランジェ家に移譲いじょうされるというわけだ。


侯爵の所有物しょゆうぶつを丸ごとゲットできるので、こちらからすればホクホク顔である。


私は告げた。


「でしたら、お願いしたいことがあります。次に挙げる錬金素材を探しているのですが――――」


私は、アーティファクトの必要素材のうち、足りていないものを列挙した。



魔宝玉

ハイエルフの法杖

氷竜の魔石

浄化石



姉上は素材の名前を聞いたうえで、つぶやく。


「ふむ……ブランジェ家では所有していない素材ね」


「でしょうね。しかし、ブロストン侯爵の財産の中には、存在するかもしれません」


「確かに」


と姉上は肯定した。


そして尋ねてくる。


「いったい何を作るつもりなのかしら? なかなか大層な素材のようだけど」


「それは秘密です」


「あら」


と姉上は肩をすくめた。


アーティファクトの製法は、それ自体が、莫大な価値のある情報である。


……まあ、姉上には別に教えてもいいのだが、食堂には使用人も複数いる。


これだけ多くの人間の前でべらべらと語るものではない。


姉上は言った。


「まあ、わかったわ。とにかく、それらの素材を探せばいいのね。もしブロストン侯爵が持っていなかったら、王都や公爵領都などで販売されていないかも確認してあげるわ」


「本当ですか。それはとても助かります」


姉上の協力があれば、アーティファクトの素材が一気に集まるかもしれない。


私はワクワクするような気分で、朝食を終えるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る