第10章360話:感謝

「まあ、でも、あなたのおかげで、諸々もろもろの問題が全て片付いたわ。本当に感謝しているのよ」


と姉上が伝えてきた。


私は微笑みを返す。


すると姉上が思い出したように告げた。


「そうそう。感謝といえば――――使用人のみんなが、あなたに伝えたいことがあるそうよ」


「……?」


私は首をかしげた。


姉上が使用人たちに視線を送る。


すると、食堂のすみに控えていた使用人たちが前に歩み出てきた。


メイド長が、使用人を代表するように、先頭に立つ。


「エリーヌ様」


とメイド長が私の名前を呼び、そして続けた。


「このたびは、ブランジェ領を救っていただき、ありがとうございました。使用人しようにん一同いちどう、エリーヌ様に感謝の言葉を申し上げます」


続いて執事の一人が告げる。


「ローラ様がおっしゃるには、此度こたびいくさは、エリーヌ様のご活躍によって勝利できたとのこと。ゆえに感謝を申し伝えたいと思いました」


続々と、他の使用人たちも言った。


「我々が仕事を失わず、これからもブランジェ家のお屋敷で働けるのは、エリーヌ様のおかげです」


「本当に、ありがとうございました」


それらの感謝を、私は黙って聞いていた。


私の心の中に、さざなみのような感動が広がっていた。


ブランジェ家の屋敷の中で、こんなふうに感謝されることは、あまりなかったからだ。


「使用人だけじゃなくて、ブランジェ領の多くの人間が、あなたの活躍には感謝するでしょうし、ちょっとした英雄扱いになるでしょうね。特に衛兵や兵士からはね」


そう姉上が補足する。


私は肩をすくめる。


「英雄みたく持ち上げられるのは、少し困りますね。ガラでもないので」


「しょうがないわよ。あれだけの武勲ぶくんを上げたんだもの。あきらめなさい」


と姉上が苦笑しながら言った。




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お知らせ:

本作の書籍化が決定いたしました……!

今年9月に発売予定となっております。


書籍化に関する具体的な内容につきましては、後日、改めて告知させていただきます。

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