第10章356話:開始

10メートルぐらいの距離をあけて、木剣を互いに構える。


まず、互いに身体強化魔法しんたいきょうかまほうを使う。


さらに、木剣へと魔力を加える。


姉上が確認してきた。


「ルールは、相手の首にさきを突きつける、降参させる、気絶させる、相手の木剣を破壊する、などをすることで勝利。逆に、それを相手からされたら負け。いいわね?」


「はい」


と私は肯定する。


さらに告げる。


「大将だからといって、花を持たせるつもりはありませんよ」


「もちろん。本気じゃなければ意味がないわ」


静寂せいじゃく


さきほどお酒を飲んでいた酔いは、ほとんど無い。


それは姉上も同じだろう。


お互いのの実力が出せる状態。


私は集中力を高める。


そして、戦いを開始する。


姉上が軽やかな足取あしどりで接近し、斬りかかってくる。


右下段みぎげだんからの切り上げだ。


私は木剣を合わせる。


触れ合う木剣。


さすが姉上。


重い一撃だ。


私の腕にビリビリとした圧力が走る。


(やっぱり姉上のほうが、基本的な能力は高いね)


攻撃力、


移動速度、


剣速けんそく


身体強化魔法の練度れんど


全てにおいて私を上回っている。


本来なら、勝てない実力差じつりょくさだろう。


しかし、リシアほどの絶望的なひらきではない。


まあまあ強いセラスぐらいだ。


(だったら……)


いつものように、相手の攻撃パターンを頭の中でシミュレーションして、追い込んでいこう。


「ふっ!」


突きを出す。


このとき急所を少しズラした位置を狙う。


「……!」


姉上が回避する。


さらに私は、同じように、急所を少しズラした位置に斬撃を放つ。


それを三、四回と繰り返す。


剣士は急所を狙われることに慣れている。


しかし、それがゆえに、急所をズラした攻撃には対処しづらい。


いつもと微妙に違うポイントで攻撃を受けなければならないからだ。


「くっ……!」


姉上が嫌そうな顔をした。


やりにくいと感じているようである。


思えば、私が姉上にこういう顔をさせるのは初めてかもしれない。


なんだか楽しい気分になってきた。


もっと攻めてみよう。


「ハァッ!」


さらに斬撃を放つ。


それらは全て決定打けっていだになる斬撃ではない。


あくまで姉上の攻撃パターンを狭め、逆に、こちらの攻撃パターンを増やすような誘導だ。


ときどき、姉上がカウンターを放ってくるが、苦しまぎれである。

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