第10章:ランヴェル帝国での暮らし

第10章355話:宴

その夜。


ブランジェ平原から少し離れた草原にて、祝勝しゅくしょううたげが開催された。


ともされる篝火かがりびが、メラメラと燃える炎で、夜の闇を照らしている。


飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。


太鼓や笛による音楽も奏でられる。


兵士たちは宴を楽しみ、勝利の酒に酔いしれていた。


私はというと、端っこのほうに設置されたテーブル席で、アリスティとともに飲んでいた。


ちなみに姉上が用意してくれるという『最高級の食事とお酒』は、今回はお預けだ。


今日は、兵士たちと混じって、軍隊らしい夕食とお酒を楽しむことにしていた。


「なんだか久しぶりですね」


とアリスティがしみじみと言った。


いくさわりの軍の宴……激しく戦い、疲れたあとに飲むお酒には、格別の味わいがあります」


うん。


そうだね。


よくわかる。


戦争そのものはつまらないが、終わったあとのお酒はいつだって美味しいものだ。


「飲んでる?」


と、いきなり背後から声をかけてきたのは姉上である。


「飲んでますよ。この通り」


と私は、杯を見せながら答える。


姉上が提案してくる。


「さっきから、ずっと二人で飲んでるじゃない? 兵士たちに混じって、話をしてきたら?」


「……まあ、接点がないですから」


私は国外追放に遭っていた身。


しかもこの戦争には、飛び入り参加のごとく、いきなり戻ってきた人間だ。


日頃ひごろから大将として部下の面倒を見てきた姉上とは違って、兵士と私のあいだには距離がある。


そのうえ私は貴族でもあるので、一兵卒いっぺいそつの身分では、気軽に話すのは難しいということもあるだろう。


「主役がそんな調子じゃ、兵士のみんなも盛り上がれないわ」


「うーん……十分盛り上がっているように見えますが」


と私は兵士たちのほうに視線を向ける。


兵士たちは普通に宴をワイワイガヤガヤと楽しんでいる。


「実質的な主賓しゅひんであるあなたが近くにいないと、どこか気の抜けた宴になるってことよ。来なさい」


と姉上が私の腕を取ってきた。


私はテーブルを立ち上がる。


姉上に連れられて、歩き始めた。


兵士たちが宴を楽しむ場所にやってくる。


「みんな、聞いてちょうだい」


と姉上が言った。


兵士たちが話や、酒を飲む手を止めて、こちらを向く。


「紹介するわ。彼女は、私の妹であるエリーヌ・ブランジェよ」


兵士たちの視線が私を向いた。


姉上が続ける。


「戦場を駆け抜けた、あの新型馬車を作ったのが、まさにエリーヌよ。あの新型馬車が、今回の戦の勝利に大きく貢献したことは、みんなもその目で見たでしょう?」


多くの兵士が目を見開き、感心の声を上げた。


さらに姉上が言った。


「でも彼女は、ものづくりも得意だけれど、剣の腕も達者なの。私でも驚くほどにね」


ん?


いきなり何を言い出すのだと、私は首をかしげる。


姉上が告げた。


「今から、私と彼女が一騎打ちの勝負をするわ。えんもたけなわ。お酒の余興として、興味がある人は見ていってちょうだい」


姉上がアイテムバッグから木剣を取り出して、私に渡してきた。


「……」


決闘をするなら、私に一言確認してからにしてほしいものだ……と思ったが、姉上は元来、こういう性格だ。


果断であり、ときに強引ともいえるような性格。


なんだかそれが懐かしく思えて、私は微笑ましい気持ちになった。


姉上から木剣を受け取る。


少し広い場所へと移動する。


兵士たちがギャラリーとして集まってくる。


私と姉上は一定の距離を取って、対峙する。

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