第9章353話:本陣へ

私は告げた。


「救いようのないバカですね。これが侯爵とは、呆れて物も言えません」


「なっ!? バカとは、なんたる物言ものいいだ。私は、君を最高の待遇で迎えると、提案しているというのに!」


とブロストン侯爵は憤慨ふんがいした。


肩をすくめた私は、直後、座っているブロストン侯爵の顔面を蹴り飛ばす。


「ぐぶっ!?」


キャンピングカーの屋上に転がるブロストン侯爵。


上体を起こすとすぐに抗議してきた。


「き、貴様! 私を足蹴あしげにするなどと……なんたる無礼だ!」


「……」


私は無言で、侯爵を何度も蹴りつける。


「ぐっ!? が、がぶっ!! やめ、わかっ、わかった! 私が悪かった! ぐはっ!!?」


うずくまり謝罪の言葉を述べる侯爵に、容赦なく蹴りを浴びせる。


ひとしきり蹴り倒したあと、私は告げた。


「あなたの処遇については、姉上に任せましょう。せいぜい姉上を取り込めるよう、努力したらいいんじゃないですか?」


まあ、姉上は、こういう状況で容赦はしない。


どうせ八つ裂きにして殺すことは間違いないだろうけど……私が手を下すことはやめておこう。


侯爵をどうするかは、姉上が判断したらいい。


「とにかく姉上に、あなたを引き渡しにいきます」


と私は宣言する。


運転ゴーレムにキャンピングカーを発進させた。


キャンピングカーが走り始める。


ブロストン侯爵が逃げないよう、アリスティに見張っていてもらう。


私はキャンピングカー屋上に座って、静かに戦場を眺めた。


乾いた風が吹きぬける戦場。


倒れた兵士。


いまだ戦いを続ける者たち。


血と砂の匂いが、風に乗って吹きつけてくる。


私の心には、達成感のような思いもあり、寂寥感せきりょうかんのような思いも沸き起こっている。


勝っても負けても全力で歓喜することができないのが戦争というもの。


結局、私は、いくさなんかよりも、のんびりクラフトをしながら旅をするほうが好きなのだ。





ほどなくして。


キャンピングカーが、本陣へとたどりつく。


姉上が出迎でむかえてくれた。


「おかえりなさい、エリーヌ!」


と姉上が、キャンピングカーの下からこちらを見上げつつ、あいさつをしてきた。


私は屋上から飛び降りながら、あいさつを返す。


「はい。ただいま、姉上」


それから私は、アリスティを振り返る。


アリスティはブロストン侯爵の首根っこを掴んで、キャンピングカー屋上から降りてきた。


私は姉上に向かって告げる。


「ご覧のとおり、ブロストン侯爵を捕えてきました。姉上に引き渡すので、降伏の宣言をさせるとよいでしょう」


「ありがとう。すぐに準備しましょう」


姉上は部下に指示を出して、ブロストン侯爵を連行した。


そのあと彼女は、私を見て告げる。


敗戦濃厚はいせんのうこうだったはずのいくさだけれど、終わってみれば、ブランジェ軍の圧倒的あっとうてき大勝利だいしょうり。これも全てあなたのおかげよ、エリーヌ」


「いいえ。全員で勝ち取った勝利ですよ」


「あなたの貢献度こうけんどが大きすぎるわ。この戦における最大の功労者こうろうしゃは、間違いなくあなたよ」


と姉上は念を押してくる。

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