第9章348話:セラス

「……」


アリスティがキスフィールを手放した。


キスフィールがばたりと倒れる。


決着だ。


「……ッ」


ふいにアリスティはよろめき、膝をついた。


キスフィールとの戦闘でかなりのダメージを負った。


毒も身体に回っている。


早く治療をしなければ。


そう思い、アイテムバッグから解毒薬げどくやく回復薬かいふくやくを取り出す。


「あ……」


そのとき、アリスティは自身の指にめていた指輪に気づく。


【威圧の指輪】だ。


そういえば、この指輪の存在をすっかり忘れていた。


戦闘中に使っていたら、もう少しラクに勝てたかもしれない。


キスフィールには効かないかもしれないが、ドラレスク将軍にならば【威圧】をかけることができただろう。


(まだまだ私も、未熟ですね)


そう反省しつつ、立ち上がる。


いったんエリーヌのもとへ戻ろうかと考えたが……


思い直して、ブロストン侯爵を追うことにした。


戦の趨勢すうせいを見た侯爵が、逃亡を決め込んでいる可能性があるからだ。


逃がすつもりはなかった。


「回復したら、ブロストン侯爵を追うとしましょうか」


そうつぶやいて、アリスティは回復薬と解毒薬を飲み干すのだった。






<エリーヌ視点>


キャンピングカーが戦場を駆ける。


機関銃をひとしきりった後、私は息をついた。


「ふう……」


戦況は、ブランジェ軍の圧倒的優勢だ。


ブロストン軍は多くのしょうを失い、統制が完全に崩れている。


兵士たちは混乱し、次々と脱走を始めている。


すでに勝敗は決していた。


「……」


姉上あねうえはきっと、いまごろ勝利の祝杯しゅくはいのことを考えているだろう。


だけど、私にはまだやるべきことがある。


「そろそろ来るかと思ってましたよ」


と私は機関銃から顔を離した。


私の視線の先には、キャンピングカーの屋上に飛び乗ってきた者たちがあった。


セラスだ。


2人のセラス隊員が並んで立っている。


フードをかぶっていて顔は見えないが、どちらも女性のようだ。


「フレッド様のかたきだ」


「お前を殺す。エリーヌ・ブランジェ!」


左のセラスが片手ダガーを逆手さかてに握り……


右のセラスが大鎌おおがまをアイテムバッグから取り出す。


「ふ……!」


ダガーのセラスが斬りかかってきた。


私はアイテムバッグからショートソードを取り出す。


そのショートソードでダガーの斬撃を受け止めた。


しかし、直後。


「……!」


私の首を狩りとらんと、頭上からセラスの大鎌が絡みつくように迫ってきた。


しかも、その大鎌を持つセラス隊員は、宙に浮いている。


空を飛べる能力……ではなく。


わずかな時間だけ滞空たいくうできる能力なのだろうと推定する。


私はその大鎌を避けつつ、ダガーのセラスにショートソードを突き刺した。


「ぐぶっ!?」


首を切り裂かれて即死するセラス。


さらに私はキャンピングカーの屋上おくじょうゆかを蹴って、大鎌のセラスのほうへ飛ぶ。


セラスは大鎌を盾にして身を守ろうとしてきたが、私はそれを上手くかいくぐるように刺突しとつを放った。


「がはっ!?」


ショートソードがセラスの腹に突き刺さる。


私が剣を腹から引き抜くと、セラスは落下してキャンピングカーの屋上に落ちた。


私も屋上に着地するなり、セラスの首に剣を走らせて、トドメを刺す。


2人を殺し終えた私は、その死体を屋上から蹴り落とした。


だが。


「……!」


さらに新たなセラスが3人、屋上へと飛び乗ってくる。


私は面倒だと思いつつも、微笑んだ。


「どんどん来なさい。全員ぜんいん斬り殺して差し上げます」


そう告げて、ふたたびショートソードを構えた。

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