第9章347話:決着

負傷した状態でキスフィールは微笑んだ。


「ふふ、なかなかやるじゃない。脳みそが筋肉だと断じたのは早計だったかしら」


さらにキスフィールは続ける。


「でも、たかだか石をぶつけたぐらいで、いい気にならないことね。あたしには透明化の力があるんだから」


次の瞬間。


キスフィールの身体が、指先ゆびさきから空気に溶けていく。


透明になっていく途中、キスフィールが告げる。


「あなたじゃ、あたしには勝てないわ。アリスティ・フレアローズ」


やがてキスフィールの姿が見えなくなる。


気配や魔力すら感じられない、完璧な透明化だ。


ここまで極まった透明化が相手では、アリスティですらキスフィールの居場所を特定できない。


しかし……


(アイテムバッグが戻った。いまならスパーク爆弾が使えます)


キスフィールがいかに優れた六傑であろうと……


エリーヌが開発した異世界の技術には対応できまい。


そう確信するアリスティは、すぐさまスパーク爆弾をアイテムバッグから取り出した。


爆弾の安全装置を外して、スイッチを押す。


次の瞬間。


周囲に大規模な放電が発生した。


「ぐあッ!!?」


ドラレスク将軍の悲鳴が上がる。


電撃をまともに食らって感電したのだ。


そして。


「いッ!?」


キスフィールも感電する。


その衝撃のおかげか、キスフィールが透明化を解いた。


姿があらわになる。


「くっ……な、なにが……起こって……!?」


キスフィールが片膝かたひざをついて、ガタガタと震えている。


電撃による麻痺で、全身が痙攣けいれんしているのだ。


身動みうごきが取れないようである。


アリスティはキスフィールの状態を確認したのち、ドラレスク将軍を見つめる。


ドラレスク将軍は、倒れていた。


気絶している……いや。


(あれは、死んでいますね)


とアリスティは判じた。


エリーヌの開発した高スパーク爆弾は、人を容赦なく死に至らしめる強力な電流を発生させる。


だからドラレスク将軍が電撃によって即死したことは、別に不思議なことではない。


むしろ、死ぬこともなければ、気絶さえしなかったキスフィールのほうが異常だ。


おそらくキスフィールは、ある程度の電撃耐性でんげきたいせいゆうしているのだろう。


まあそれでも……さすがに完全かんぜん無効化むこうかまではできなかったようだが。


「決着ですね」


とアリスティはキスフィールに向かって告げた。


「これはエリーヌお嬢様が開発した武器です。いかがですか、私のあるじはすごいでしょう?」


とアリスティは使い終わったスパーク爆弾を、少し自慢げに、キスフィールに見せびらかす。


そして。


「ま、まだ、あたしは……きゃっ!!?」


キスフィールが何かしらの抵抗をおこなう前に、アリスティがキスフィールの髪をつかんだ。


並外なみはずれた握力あくりょくを持つアリスティに掴まれたら、振りほどくことはできない。


その状態で、アリスティは使い終わったスパーク爆弾をアイテムバッグへ収納。


代わりにアイテムバッグから、ナイフを取り出した。


キスフィールの首にナイフを突き刺す。


「ぐっ、ぐぶっ……!」


ナイフを引き抜くアリスティ。


キスフィールの喉から血飛沫ちしぶきが舞う。


あふれた血液が口からもき出る。


数秒後、キスフィールが大量失血たいりょうしっけつによって抵抗力ていこうりょくを失ったので……


アリスティは彼女の頚骨けいこつをへし折って、トドメを刺した。

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