第9章345話:アリスティの価値

蛇毒じゃどくに、麻痺毒まひどくなど、いろいろな毒を発生させる剣よ。致死毒ちしどくはないから、敵を死なせることはないけれど……斬った相手を100パーセントの確率で毒状態どくじょうたいにするから、ここぞというときに愛用しているのよね」


斬りつけた相手を100パーセントの確率で毒状態にする毒剣どくけん


死にいたる毒はないことから、殺すためではなく、相手の動きを鈍くするために使っている……ということか。


「……やはり曲者くせものじみた戦術が得意なんですね」


「暗殺家なんて、どいつもこいつも曲者よ。あなたみたいなバカ脳筋のうきんと違って、ね」


キスフィールがあざわらう。


「あたしね、本当はあなたのことを六傑として認めてないのよ。あなたは『大陸最強の戦士』とうたわれ、六傑に就任した―――でも、あなたが最強だなんて、真っ赤なウソ。あなたより強い人間なんて、それなりに存在するもの。あたしだけじゃなくてね」


キスフィールが一拍いっぱくいてから、さらに続けた。


「それでもあなたが、なぜ六傑の末席を汚していられるか分かる? それはまさしく、あなたの攻撃力が天下一品てんかいっぴんだからよ。たとえば、どんな攻撃も通らない、最強の防御力を持つ魔物が現れたら、そのときあたしも、フレッドもイグーニドラシェルも、きっと役に立たない。何をやったってダメージが通らないんだから」


「……」


「だからこそあなたの存在が重要なの。壊せない敵を、あなたなら壊せるかもしれない。みんなが0ダメージしか与えられない中、あなただけは、たった1ダメージでも与えられるかもしれない。少しでもダメージが入るなら、竜だろうと魔王だろうと殺すことができる」


そしてキスフィールは以下のようにまとめる。


「それが、攻撃力最強であるあなたの存在価値そんざいかちよ」


最後に付け加えるキスフィール。


「でもさぁ、それってつまり、攻撃力以外は大して価値がないってことでしょ? それで六傑の一人に数えられるのは、過大評価もいいところだと思わない?」


「……ずいぶんとおしゃべりですね。毒が回りきるのを待ってるからですか」


「あら、バレちゃった。脳みそが筋肉でも、それぐらいは想像つくのね」


「……私は、言うほど思考回路が単純ではないつもりですが」


とアリスティはやや不服そうにつぶやく。


「そして毒状態にされたぐらいで動きが鈍るほど、ヤワではありません」


アリスティは毒にあらがいながら、攻撃の構えを取った。


右脚をわずかに上げ、地面を踏みつける。


「フッ!!」


ズガンッ、と踏み砕かれた地面。


アリスティの右足が地中にめりこむ。


その状態でアリスティは、同じく右足で地面を蹴り上げた。


「!!


砕かれた土や小石が、飛礫つぶてとなってキスフィールへ飛んでいく。


キスフィールは手をかざし、風魔法によって、難なく飛礫つぶてを払いのける。


だがそれぐらい、アリスティも想定済みだ。


「……!」


飛礫による攻撃を放ったのと同時に、アリスティも動いていた。


素早い速度でキスフィールの側面に回り込んでいる。


飛礫攻撃つぶてこうげきはあくまで目くらまし。


本命は打撃だ。

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