第9章342話:激突

ドラレスク将軍が地を蹴る。


足元を爆発させるような衝撃とともに、ドラレスク将軍がアリスティに迫った。


「ドラァァッ!!」


ドラレスク将軍が大剣を、横へとぎ払う。


さきほどとは威力が何倍にも跳ね上がった、轟風ごうふうをまとう薙ぎ払い。


アリスティが冷静に身を低くかがめる。


大剣はアリスティの頭上を通り過ぎていく。


斬撃をやりすごしたアリスティが反撃のパンチを放とうとするが。


ドラレスク将軍が身体を一回転いっかいてんさせながら、ふたたび斬撃を放ってくる。


大剣による回転斬かいてんぎり。


アリスティはパンチをキャンセルして、いったんバックステップで距離を取ろうとする。


「オオオォォォッ!!」


離れんとするアリスティに、距離を詰めていくドラレスク将軍。


大剣による連撃を放つ。


袈裟斬けさぎり。


上段。


横薙よこなぎ。


下からすくいあげる切り上げ。


ドラレスク将軍が矢継やつばやに攻撃を重ねてくる。


さきほどより速い。


そして強い。


ドラレスク将軍の奥義おうぎ死闘状態しとうじょうたい】による攻撃は、さすがに圧巻あっかんだ。


パワーもスピードも桁違けたちがいに跳ね上がっている。


もともとドラレスク将軍は、将軍だけあって、剣術の技量も一級だ。


巨躯きょくと、大剣のリーチを活かした、広い間合いの戦闘スタイル。


アリスティは反撃の手が出せない。


一見してドラレスク将軍が主導権を握っているように見える。


しかし。


ドラレスク将軍は、自分が優位だとは認識していなかった。


なぜなら、アリスティからにじみでる気迫をびしびしと感じていたからだ。


(すさまじい圧力だ……)


攻めあぐねているアリスティ。


しかし攻撃の意思は失っておらず、いつでもドラレスク将軍を打ちのめす闘気とうきを見せている。


その突き刺さるようなあつが、ドラレスク将軍を戦慄せんりつさせる。


反撃のチャンスをうかがうアリスティの姿は、さながら竜が、一時的に攻撃の手を止めているだけにしか見えない。


(だが……負けぬ!)


とドラレスク将軍は気炎きえんをあげる。


アリスティは生ける伝説。


己の全てをして、ようやく互角に持ち込めるかどうかという相手。


苦戦、苦闘は覚悟の上である。


ドラレスク将軍は、アリスティの気迫に負けじと、攻撃を続ける。


「……」


そんなドラレスク将軍の猛攻もうこうを、アリスティは冷静に見つめる。


アリスティは歴戦の戦士ではあるが、戦闘を複雑には考えない。


彼女にとって戦闘とは、至極しごくシンプルなものだ。


つまり、いかに自分の攻撃を、相手にぶつけるか――――


打撃力だげきりょくが極まっているアリスティにとっては、その一点にのみ集中していればよい。


ドラレスク将軍は、攻撃力も高いし技術も優れている。


しかしアリスティにとっては、パワーでゴリ押ししてもなんとかなる相手だ。


だから、彼女は。


「!!」


大きくドラレスク将軍の間合いに踏み込む。


身体ごとドラレスク将軍にぶつかりにいく、突進のごとき踏み込みは、戦術や戦略は考慮されていない。


単純な力押ちからおしでねじ伏せようとするかのような動きだ。


そんなシンプルな攻勢こうせいであるにもかかわらず、ドラレスク将軍は苦悩する。


なぜなら、ここで回避したらかんによる攻撃が飛んでくる。


かといってアリスティのパワーを、パワーで押し返すのは不可能だ。


ドラレスク将軍にとって、選択をあやまったら死ぬ局面であった。

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