第9章336話:拳の威力

だが。


「く、」


サリザが激怒の表情を解き……


小バカにしたように笑う。


「くはははは! やっぱり面白いな、エリーヌ! 一発あたしに決めたのは、マジで驚いたぜ」


「……」


「だがよ、しょせんは雑魚パンチだ。ヘボすぎて何のダメージもなければ、頭も揺れてねえ」


サリザが首を揺らし、クキッと音を鳴らす。


そしてサリザが言い放ってきた。


「残念だったな――――テメエのショボすぎる打撃じゃ、あたしは倒せねえってことだ」


私は微笑む。


さきほどの一撃は、サリザのあごに決まった。


しかし、たしかにダメージが入ったという手ごたえはない。


あごを揺らして脳震盪のうしんとうを起こすということもできていない。


(サリザさんは、戦士の適性があるからなぁ。普通に殴ったぐらいじゃ、効かないか)


私は反省する。


同時に、どうすればダメージが入るか考えた。


身体強化魔法しんたいきょうかまほうを進化させることを、急におこなうのは不可能だ。


ならば身体強化魔法を"うまく"運用するしかない。


才能が足りないなら工夫で補う。


どちらかといえば、私はそのほうが得意である。


「さきほどの攻撃では、たしかにサリザさんには、何の痛痒つうようも与えていないようですね」


私は言った。


「なら次は、もう少し上手く殴るだけです」


そして私はファイティングポーズを取る。


「……」


サリザが顔をしかめる。


「テメエ……マジであたしに勝てる気でいやがんのかよ」


「はい、もちろん」


「思い上がってんじゃねえ! テメエみたいな雑魚が、あたしを凌駕りょうができると思うな! ゴミの錬成しかできない底辺魔導師ていへんまどうしが!」


相変わらずの罵詈雑言ばりぞうごん


私は挑発することにした。


「あの……もしかしてビビってます?」


「あ!?」


「私も鬼じゃないんで、怖いならやめてあげてもいいですよ? その場に土下座して、私に楯突たてついた無礼を謝罪するならですが」


と、あえて馬鹿にするような声で告げた。


私の挑発的な物言ものいいに、サリザが青筋あおすじを浮かばせて、ブチギレた。


「誰にモノ言ってやがんだよテメエ!! 謝罪だと! 土下座だと!? するわけねーだろゴミが! ぶっ殺してやる!!」


サリザが床を蹴って、斬りかかってきた。


それを私はかわしながら――――


カウンターの右拳みぎこぶしを放つ。


このとき拳に魔力をまとわせるように、身体強化魔法をコントロールするのが常だが……


私は、拳だけでなく、肩周かたまわりの筋肉や広背筋こうはいきんなど、パンチを打つのに必要な筋肉きんにく全体ぜんたいへと、魔力をめぐらせた。


「ぐっ!!?」


その状態で放たれた私の拳が、サリザのみぞおちに直撃する。


濃密な魔力がまとった拳は、サリザへとダメージを与えたようだ。


サリザが苦悶くもんの顔を浮かべる。


(よし……手ごたえがあった)


と私は微笑んだ。

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