第9章334話:サリザ2

サリザが告げる。


「なんで、くくく、そんないたウソをついちまうかなぁッ!? そこまでして自尊心じそんしんを保ちたいのか? 無能に生まれたことが惨めすぎて、ウソで自分を塗り固めてんのか? 情けねえ!!」


さらにサリザが続ける。


「いいか? テメエはアリスティに、おんぶにだっこしてる赤ちゃんだよ。一人じゃ何にもできない、雑魚以下ざこいか出来損できそこない。それがエリーヌ・ブランジェっていうゴミ女だ」


「相変わらず、人を罵倒ばとうすることだけはお上手ですね」


「罵倒? 違うな。事実を述べただけだ」


サリザは、ふう、と息をついてから告げた。


「さて、おしゃべりはこれぐらいにして……そろそろるか」


サリザが殺気さっきをあらわにする。


かつて、私を―――エリーヌを散々さんざんにいじめた相手。


なぐるの暴行を受ける、罵倒されるといったことは、軍ならばよくあることだが……


水をかけられる、


崖から蹴り落とされる、


服やモノを隠される、


やってない失敗をやったことにされるなど、


イジメというほかない行為を、何度も受けた。


当時はサリザに、ひどくおびえていたことをおぼえている。


だが。


どうしてだろうか。


――――いまの私には、恐怖心きょうふしんがない。


フレッドという壁を乗り越えたことで、自信がついたか。


あるいは単に、いろいろあったことで、精神的にタフになったのかもしれない。


とにかくサリザと対峙たいじしても、怖さを感じなかった。


(もう、サリザなんて怖くない……)


むしろ。


どうサリザをボコボコにしてやろうかという、アグレッシブなイメージが次々と浮かぶ。


私は、その感情に身を任せることにした。


「……」


私は右手に持っていた剣を、キャンピングカーの屋上からポイッと投げ捨てた。


サリザがぽかんとする。


「……あ?」


サリザが尋ねてくる。


「テメエ……なんで剣を捨てた?」


「なんでって……手加減するためですよ」


「手加減だと?」


サリザが理解不能りかいふのうな顔をする。


私は、小馬鹿こばかにするように告げた。


「だって、サリザさんごときに本気で戦ったら、一瞬で倒しちゃいそうですからね。武器ナシで戦ってあげようかと思いまして」


「―――――――――」


私の言葉に、サリザが唖然あぜんとする。

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