第9章327話:命令

<ローラ視点・続き>


「いいえ……呆けている場合ではないわね」


とローラは我に返った。


まだ戦争は終わっていない。


自分の成すべきことを成さなければ。


全軍ぜんぐんぐ! 突撃を開始しなさい!」


とローラは大声で指示した。


しかし。


味方の兵士は動かない。


戦場で起こっている出来事を見て、呆然としている。


ローラは再度、号令した。


「全軍に告ぐッ!!!」


ローラは叫んだ。


「突撃を開始しなさい!!」


今度の命令は、届いたようだ。


各隊長たちが、我に返り、部下たちに命令を発し始める。


「と、突撃だ!」


「全軍突撃ィーーッ!」


兵士たちも我に返り、命令にしたがい始める。


かくして、ブランジェ軍の全軍が動き出した。






<エリーヌ視点>


ブランジェ軍の突撃を確認する。


ブランジェ兵たちが、喊声かんせいをあげながらブロストン軍へと突っ込んでいく。


一方……


ブロストン軍は、かなりのレベルで士気が落ちていた。


悲鳴をあげて脱走を始めている者もいる。


私は言った。


「狙い通り、ブロストン軍は腰砕こしくだけですね」


アリスティが応じる。


「さきほどの爆発は、見た目の衝撃も大きいですからね……ブロストン軍の士気は壊滅的かいめつてきでしょう」


ゴーレムを使った魔法爆弾――――【ゴーレム爆弾】は、威力はもちろん、視覚的なインパクトも大きい。


巨大な大爆発を起こし、数百人の兵士を一度に消し飛ばす。


そんな攻撃がいつ飛んでくるかわからないブロストン兵たちの心理状態は、極めて悪化しているだろう。


アリスティが言った。


「イグーニドラシェルのような超一流ちょういちりゅうの魔導師が、大魔法だいまほうを使ったときに似ているかもしれません。広範囲こうはんい魔法はんいは、見た目が派手なので、やられた側は戦意が大きくそがれます」


「……まあでも、逆に言えば、あの【ゴーレム爆弾】は未知の威力というわけではなく、それなりに有り得る攻撃だということでもあります」


と私は告げる。


ゴーレム爆弾は強力だが、異世界の歴史上、最大級の火力というわけではない。


イグーニドラシェルや、それに近い魔導師が、戦場で行使できるレベルの攻撃でしかない。


私は続けた。


「ですから、敵士気てきしきに与えるダメージは大きいですが、勝敗を左右するほどではありません。次の作戦を打つ必要があります」


そして私はアリスティに命令する。


「アリスティ……予定通り、ドラレスク将軍を討ってください」


次の作戦は、アリスティの単独行動。


アリスティが単騎突撃して、ドラレスクを討伐すること。


もし可能ならば、そのままブロストン侯爵を討って、戦争を終わらせることだ。


「……お嬢様のもとを離れるのは心配ですが」


「大丈夫です。いまの私は強いですから」


と私は答えた。


アリスティは、小さく微笑んで、うなずく。


「……わかりました。では、行ってまいります」


「はい。ご武運を」


と私は答えた。


アリスティはキャンピングカーを飛び降りて、ドラレスク将軍のいるブロストン本陣へと進みだした。

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