第9章320話:ブロストン兵の視点2

<ブロストン兵の視点・続き>


時速100キロほどの速度で駆け抜けるキャンピングカー。


これはだいたい100メートルを3秒程度で走行するスピードだ。


異世界には身体強化魔法しんたいきょうかまほうがあるので、地球人ちきゅうじんより早く走れる人間は多いのだが……


それでもさすがに、100メートルを3秒ほどで走れる者は少ない。


ゆえにキャンピングカーの速度に追いすがることは難しい。


「……!」


だが、ブロストン軍の中には、頭のキレる隊長もいた。


女隊長おんなたいちょうである。


彼女はキャンピングカーのスピードを予測して、完璧な位置取いちどりで、部下とともに待機していた。


「今よ!!」


と部下に命令して、キャンピングカーを押さえにかかる。


女隊長にいたっては、なんと、キャンピングカーを正面から両手で受け止めようとした。


(しょせんは馬車!! 身体強化魔法を使えば、止められないはずはない!!)


女隊長は身体強化魔法で、フィジカルを強化する。


その状態で、キャンピングカーの走行を真正面まっしょうめんから止めようとした。


だが。


「え!?」


女隊長は驚愕きょうがくする。


「お、重い!!?」


女隊長は、キャンピングカーを、ただの馬車だと思っていた。


少し見た目が違うだけで、馬車に似た何かだと。


だが、触れてみてわかった。


これは馬車じゃない……


高速で走る……はがねかたまりだ!


「うぐぐっ!!!?」


数トンも重量があるキャンピングカー。


それが100キロ近いスピードで突っ込んでくるのを、女隊長ひとりでは受け止めきれない。


だが。


(くっ……負けるものかァッ!!)


と女隊長が気合いを見せ、なんとキャンピングカーにパンチを叩き込んだ。


身体強化魔法で強化したパンチ。


それでキャンピングカーが粉砕してくれると思ったが……しかし。


「!?」


壊れない。


びくともしない。


実はエリーヌは、この日のためにキャンピングカーのボディを強化していた。


魔石ませきこうランク素材そざいなどを取り込んで強化されたキャンピングカーには、並みの打撃は通用しない。


「あ、あああああああッ!!?」


もはやキャンピングカーの圧力に耐え切れず。


女隊長はキャンピングカーに押しきられ、踏み潰されていった。


周りで見ていた兵士たちは戦慄せんりつする。


「な、なんだよあれ」


「騎兵や馬車の比じゃねえ……」


「速さも重量もとんでもないぞ! ぶつかったらころされて終わりだ!」


「あんなのどうやって止めたらいいんだよ!」


キャンピングカーによる単騎たんきがけ。


たった一台で突っ込んできているだけなのに、誰も止めることができない。


歩兵ほへいも。


騎兵きへいも。


やりぶすまも。


すべてを重量とスピードで跳ね飛ばして、踏み潰す。


何者も寄せ付けない。


エリーヌのキャンピングカーは、戦車のごとき強靭きょうじんさで、ブロストンへい蹂躙じゅうりんしていくのだった。

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