第8章316話:ブロストン視点

<ブロストン視点>


ブロストン侯爵は、本陣ほんじんに戻ってきた。


平原の小高こだかい丘に陣取じんどっている。


ここからなら、平原を一望いちぼうすることができる。


戦場の様子を眺めるのに最適の場所だ。


そこに設置した椅子に座るブロストン侯爵。


ドラレスク将軍が言ってきた。


「エリーヌ・ブランジェと、アリスティ・フレアローズが帰国しておったな」


「うむ」


とブロストン侯爵はあいづちを打つ。


ブロストン侯爵は言った。


「六傑を雇っておいて正解だった。危うくアリスティ一人に、うちが全滅させられるところだった。……アリスティのことは任せてもよいな、キスフィール殿どの?」


「もちろんよ」


とキスフィールは答える。


サリザが告げる。


「なあ、キスフィールさんがアリスティと戦うなら、エリーヌはあたしに任せろよ」


「ふむ……」


サリザのもうに対して、ブロストン侯爵が、考えこむ。


ドラレスク将軍が代わりに答えた。


「いいんじゃないか? エリーヌ・ブランジェは『無能』のレッテルを貼られてきた錬金魔導師だ。大した脅威になるまい」


「……そうだな」


とブロストン侯爵がうなずいた。


ブロストン侯爵が命ずる。


「ではエリーヌ・ブランジェは、サリザ殿どのに任せよう」


「よし。ありがとよ、侯爵」


「敬語を使いたまえ」


とブロストン侯爵は注意した。


サリザは手をひらひらと振ってから、立ち去っていく。


ブロストン侯爵は、尋ねる。


「戦況はどう見る? ドラレスク将軍」


「……まあ、勝利は確実だろうな。3000対15000の戦い。兵数へいすうの差がありすぎる」


「兵が多ければ勝てると? 逆転もあるのではないか」


「我々は、英雄譚えいゆうたんが好きだ。少ない数で大軍たいぐんを圧倒するような、伝説めいた話を好む。――――しかし、それは兵法へいほうに反する。実際のいくさとは、どこまでいっても数なのだ。多数の兵によって、少数の兵を踏み潰したほうが勝利する。それが現実というものだ」


さらにドラレスク将軍は告げる。


「もちろんフレッドやアリスティのような、単騎たんき万軍ばんぐん匹敵ひってきするような、異常な天才もいるが……今回は、こちらにも同じカードがあるからな」


ドラレスク将軍は、キスフィールにちらりと目をやった。


相手にはアリスティという天才がいるが、こちらにもキスフィールという天才がいる。


条件は互角ならば、単純な兵数差へいすうさが活きてくる。


「今回の戦争は我々が圧勝する――――これは願望ではなく、論理だ。この状況で5倍もの兵力差へいりょくさをくつがえすなど不可能だからな」


「なるほどな」


ブロストン侯爵は、微笑んだ。


「安心したよ。将軍であるドラレスク殿が言うならば、心強い」


さらにブロストン侯爵が続けた。


「では、開戦かいせんといこうか。おい」


「はっ!」


部下に対して、ブロストン侯爵が命令する。


「わがぐん前方部隊ぜんぽうぶたいに、進軍を開始させたまえ」


「了解いたしました!」


部下が立ち去っていく。


かくして、戦争の火蓋ひぶたが切られる。

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