第8章315話:戦いの前のあいさつ

サリザはせせら笑いながら言った。


「ローラが心配で帰ってきたのか? お姉ちゃん想いだねえ?」


「サリザさん……あなた、ブロストン侯爵側についたんですね?」


と私は尋ねた。


サリザは、かつてフレッドの配下にいた女だ。


本来ならブランジェ側につくべきはずだが。


「ああ、そうだぜ? だってブランジェ家とか、もう終わってんだろ。つく価値ねえし。侯爵につくのは当然だ」


とサリザはしれっと言った。


「ははは、サリザ殿は賢明だな」


と笑ったのはブロストン侯爵である。


「私もサリザ殿どのと同じ立場なら、そうしただろう。現状のブランジェ家に味方するなど、骨頂こっちょうだ」


とブロストン侯爵は笑った。


「ずいぶんなぐさね。ブロストン侯爵」


とローラが口を挟む。


ローラは続けた。


「あなたが戦争を仕掛けてきたせいで、うちが窮地きゅうちに立たされているのよ」


「敬語をつかいたまえよ、ローラ殿。私は侯爵だぞ?」


「私を殺そうとしてる相手に、敬語なんて使うわけないでしょ」


とローラは毅然と言い返した。


そのときドラレスク将軍が口を開いた。


「アリスティ・フレアローズを連れ戻したか」


ドラレスク将軍は一拍置いっぱくおいてから、さらに続ける。


「最低限、戦いにはなりそうだな」


「ええ。ラクな戦争になると思わないことね」


「ああ。だが、こちらにも六傑がいる。アリスティ以上の六傑がな」


ドラレスク将軍は、ななうしろの女性を見つめた。


黒衣の女である。


どうやらその女性が、六傑――――キスフィールらしい。


「我々の勝利は揺るがない。ブランジェ家は、今日をもって、破滅する」


とドラレスク将軍は静かにそう宣言する。


同意したのはキスフィールだった。


「そうね……アリスティは手強てごわいけれど、あたしのほうが序列は上だもの。あたしのスキルは、アリスティと相性も良いしね」


とキスフィールは微笑んだ。


アリスティは、何もいわず沈黙していた。


ブロストン侯爵が告げる。


「まあ、せいぜい悪あがきをしたまえよ、ローラ殿。では、挨拶はこれぐらいにして、我々は失礼する」


とブロストン侯爵がきびすを返す。


侯爵たちは去っていく。


その途中。


サリザが肩越かたごしに振り返って、私に言ってきた。


「エリーヌ、お前が国外追放になったときは笑ったよ」


「……」


私は押し黙る。


サリザはニヤニヤと笑いながら、告げる。


「ショックで自殺してると思ってたのにさあ……意外に元気そうじゃねえか? 心が弱すぎて、自害できなかったのか?」


さらにサリザは続けた。


「まあ安心しろ。あたしがあとで、八つ裂きにしてやるからな。楽しみにしとけよ」


そして、サリザは歩き去っていく。


相変わらずのようだな、サリザは。


ローラは言った。


「エリーヌ、大丈夫?」


「はい。大丈夫です」


「そう。私たちも戻りましょう」


とローラはきびすを返す。


私もそれに続いて、本陣へと戻っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る